第52話 傀儡工房村、襲撃(1) ライラの提案

 エスペルは自宅ソファーで気持ちよさそうに寝ていた。

 まだ早朝、キリア大聖堂での戦闘の翌朝である。


「エスペル、起きて」


 ライラの呼びかけに、重低音が返事する。


「グー……。グー……」


「すごいイビキ……。ねえ、起きてよ、エスペルってば」


 ライラはエスペルの両肩をつかんで揺さぶった。

 エスペルが眉間にしわをよせてしょぼくれた顔をする。


「んあー?……?」


「起きた?」


 目を開けると、ライラが自分に覆いかぶさってきていた。


 ライラに寝込みを襲われている……ように、エスペルには見えた。


「ファッ!?」


 エスペルはふっと視線を下に向けた。己の肩に両腕をついて見下ろしている、ライラのパジャマの胸元に。

 伏せた姿勢のせいで胸元が開いて、そこから白くて綺麗なぽよんとした小ぶりな丸みが、小ぶり故にこそ、すなわちそう、桃色の先端まで……。

 

 エスペルはガッ!!と、顔を横にそむけた。

 騎士だから。


「どど、どうしたライラ!お、お前の寝床はあっちのベッドでこのソファはっ」


 エスペルから身を離したライラが、不思議そうな顔で首をかしげた。


「なにを焦ってるの?」


「ふえっ!?あ……。わかった、腹減ってんだな!?果物、果物、ええと冷却箱の中に!」


 エスペルは動転しながらソファから身を起こすと、まろびながら立ち上がって台所に向かおうとした。


「何言ってるのよもう……。ねえ私、思いついたことがあるんだけど」


「お、思いついた?」


「うん、死霊傀儡のこと。送らせるの、止められるかもしれないわ」


「!!」


 台所に行こうとしていたエスペルは、真顔になってライラに振り向いた。一気に目が覚めた。


「……本当か?」


 ライラはこくりとうなずく。


「あなた昨日、霧の結界を抜け出してきたって言ったわよね。ということは、入ることも可能ということだわ」


「あ、ああ、そうだ。だから初めてライラに会った日、俺は死の霧の中に入ろうとしていたんだ」


「あなたは強いわ。あなたが一緒なら、もしかしたら可能かも……」


「何の話だ?」


「死霊傀儡はね、全て傀儡工房村で作られているの。職人セラフィムたちが作るの。その村は川辺にあるわ。多分、昨日一緒に見たあの川」


「テイム川か!」


「うん。その川の川辺。稼働前の死霊傀儡や、材料となる人間の死体や死魂を特殊な処理で保管しておく場所も、同じ所にあるわ。傀儡を作れる職人たちも、全員そこに住んでる」


「つまり……そこを叩けば死霊傀儡を壊滅させられるってことか!」


「だと、思う」


 エスペルは感心したようにまゆを上げると、くっと噴き出した。


「まさか襲撃のお誘いとはなあ。やるじゃないか、ライラ」


 ライラはつんとすまして言った。


「生き残りたいですから」


 エスペルもそれに呼応するように、不敵な笑みを浮かべた。


「よし、行こうぜ、工房襲撃!騎士団長に相談だ!」

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