第24話 双子のセラフィム

 その宮殿は、壁も床も天井も、全てが白水晶に似た不思議な素材で出来ていた。

 半透明の白い氷のようで、ところどころに虹色の光彩を含む、未知の物質。


 一人の非常に美しいセラフィムの女が、宮殿の白亜の階段を昇っていく。


 ウェーブする長い髪は、陽光のように輝く金髪。薄い琥珀色の瞳は幻想的で、かつ気品に溢れている。

 その身を包むのは甲冑服ではなく、華やかな真珠色のロングドレスだった。甲冑服を着ていないのは、上位の女性セラフィムの特徴である。長い透明な羽は輝くヴェールのように背中から垂れ下がり、ドレスの一部のようだ。


 階段を昇りきった女は、大きな出窓前の椅子に腰掛けている、黒髪の男に声を掛けた。


「ここにいたのね、サタン」


 窓の外を見ていた男が振り向く。


「ルシフェルか」


 サタンと呼ばれた男のセラフィムは、これまた大変な美貌の男だった。


 組んだ長い脚も、物憂げに顎を載せる腕も、無駄なく引き締まっており、黒の甲冑服は、彫像のように整った肉体を強調している。

 

 襟足長めの黒髪は、ルシフェルと同じようにウェーブしていて、瞳の色もルシフェルと同じ琥珀色。


 髪の色と男女の違いこそあれ、その顔つきは瓜二つだった。

 それもそのはず、男女の双子である。


「下界を見ていたの?」


 ルシフェルも窓辺により見下ろした。


 眼下に広がる、カブリア王国を。


 彼らのいる天空宮殿から、王国の街並も森林も丘陵も、まるで玩具のように見える。


「少し、考え事をな。閉ざされた王国……。もう見飽きてしまった」


「今だけよ。もうすぐ私たちはこの地球の全てを見下ろすことができるわ」


 サタンの口元に笑みが浮かぶ。


「そうだな。……分裂は順調か?」


「ええ、滞りないわ」


「次元上昇の時は近いな」


 ルシフェルは頷いた。その美しい横顔を、窓からさす薄明かりが照らす。


「全ては、天界開闢てんかいかいびゃくの摂理どおりよ」

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