第162話 アフターストーリー イングリッドとエルンスト。フェイとミーアの剣③
「グスタフ、何を言おうとしているのかしら」
ママの声がしたとたん。
「い、いえ。自分は何も……」
タフで鳴らす騎士団長グスタフさんがとたんに取り乱した。額にはうっすらと汗がにじんでいる。ママの声は決して怒鳴っている訳でもなく、柔らかな優しい声なのだけれど、妙な圧力があるのは確かで、僕とイングリッドも固まってしまっている。
「何もじゃないわよね」
「も、申し訳ございません。ご子息様、ご息女様の剣技があまりに素晴らしくうっかりいたしました」
グスタフさんはママの前に跪き首を垂れた。
そこでママは小さくため息をついた。
「もうわかってるでしょうに。あれらの剣を振るえた段階でどうなのかは」
「は、しかし」
「しかしじゃないの。あれらの剣は認めた使い手に力を与える。でも使い手の本当の力までは判断してくれない。あなたにも話したことあるわよね。未熟だった頃の勇者様が聖剣に振り回されてどういうことをしでかしたか」
「は、結界を破壊してしまったというお話ですな」
「私の大切な子供たちに同じ轍を踏ませるつもりだったのかしら」
「いえ、決してそのようなことは」
「なら、どうするべきかわかるわよね」
ママがそう言うとグスタフさんが立ち上がり、僕たちに向かって歩み寄ってきた。
「エルンスト様、イングリッド様。お2人がそれらの剣に認められたことお祝い申し上げます。しかし、現時点ではまだお2人がその剣を振るうことを認めるわけにはまいりません。武器庫にお戻し頂けますよう」
僕もイングリッドも言われている意味が分からず
「ええ、なんで。ちゃんと振るえていたでしょう」
そう反論したところ、ママが声を掛けてきた。
「エルンスト、その剣を振るってどう感じたかしら」
どう感じたって
「すごい切れ味で、まるで素振りをしているように木杭が切り落とせたよ」
「それだけかしら」
「それ以外になにかあるの」
「イングリッドあたしの剣をかしてみなさい」
そう言うとママはイングリッドから双剣を受け取り、木杭に向かって振るって見せた。いや、おそらくは振るったと思う。その剣筋は僕たちには一筋の金色の光にしか見えなかった。まるでダンスを舞うようにママはひとしきり剣を振るうと、双剣をイングリッドに手渡した。
「あなた達の剣と違いが分かるかしら。エルンストが手に持つ両手持ちの大剣はあたしでは手に余るから振るって見せてあげることは出来ないけれど、パパが振るえば竜の首さえ落とすわ。いえパパの振るうその大剣の前には本当の意味で耐えることのできるものはいない」
確かに明らかに僕たちが振るった時と何かが違うのは感じた。でも、
「その、これらの剣を振るうことでこそ鍛えられるのではないの」
僕は思わず疑問を口にしていた。
「あなた達は、その剣に振り回されているの。それらの剣はどれも素晴らしい力を秘めているわ。でもね、あなた達ではまだ剣に使われている。その剣の従僕になってしまっているの。だから今はあなた達にその剣を与えるわけにはいかない。いつかその剣より上に立ち剣の主となれる力をつけたその時にこそ、それらの剣を本当の意味で譲りましょう」
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