第142話 現れた赤き鳳

空が茜色に染まりそろそろ星が瞬き始めるころ、いきなりそれは現れた。僕もミーアもいきなりの事に驚き動き出すのにわずかに時間が掛かってしまった。

「山頂の広場にいきなり探知の反応がでた」

「フェイの探知でもそうなの」

「とにかく山頂に行こう。とりあえず広場に入る手前の木の影から様子を見よう」

僕とミーアが木の影から覗くと、そこには真っ赤に光る鳳がいた。鳳は、リラックスした様子で毛づくろいをしており、警戒する様子が見えない。ミーアとアイコンタクトをとり、弓を準備する。距離が近いのとこちら側が暗いので燐光を放ち目立つオリハルコンの鏃は使いづらい。通常の鉄の鏃を取り付けた矢をつがえ息を合わせて放つ。左右の目を狙ったのだけれど、赤鳳が突然動き出してしまったため、当たりはしたものの狙いからは外れ僕の放った矢もミーアが放った矢も首に刺さるにとどまる。そして赤鳳は僕達に気付くと大きく口を開け一声叫ぶと宵闇に溶けるように姿を消してしまった。

「え」

目で見えないだけではなく、探知にも反応しない。まるで最初からそこに居なかったかのように。赤鳳がいたあたりをよく見ると、点々を血の跡がある。矢は間違いなく赤鳳を傷つけていたということだろう。

「突然この場所に現れて、矢を受けただけでその場からいなくなるのか。ミーアどう思う」

僕はある思いを込めてミーアに声を掛けた。

「1撃で決めるしかないのかしら」

戸惑いながらも僕と同じ結論に達したミーアに頷きを返し同意の意思を伝える。

「ただ、いったいいつここに戻ってくるのか分からないのよね」

ミーアの戸惑いに、もっともだと僕も頷く。さすがに狩人の祝福を頂いているとはいえ僕たちも人間。常に緊張した状態で監視を続け赤鳳が現れたところで十全な攻撃を出来る状態を維持するのは難しい。だから

「しばらく様子をうかがうしかないかな。探知には引っかかるようだから山の下から探知で監視して何か規則性が無いかを調べよう」

そこから僕とミーアはいったん山の下に降りた。探知を展開し、監視を始める。幸いにして、追跡の応用で身を潜めれば魔獣達に発見されることなくそこに留まることが出来たため、余計な戦闘をする必要がなく消耗を抑えられたこと。そうして身を潜め、探知で様子をうかがうこと5日。

「どうやら赤鳳は、夕方空が茜色に染まる頃にあの場所にいきなり現れるみたいだね」

「ええ、そういう原理か理屈かは分からないけれど、まるで幽霊がそこに現れるようにね」

「そして、最初の戦闘の様子から傷を負うとその場から消える」

「でも、普通の鉄の鏃でさえ刺さったのは以外だったけど」

「つまり赤鳳は、姿を現している間は、攻撃が通る。ただし、すぐに姿を消すから重い1撃を入れてみるしか無いってことだね」

「それなら」

僕とミーアは顔を見合わせて頷きあう。

「あの場所であの時間に待機して、現れたタイミングで僕達の全力の1撃を打ち込んでみよう」





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