第116話 確証の無い話

 森から溢れ出ていた魔獣を狩り終えた僕たちは、翌日からスタンピードの規模を縮小させるために森の中ではぐれ魔獣を狩る。他の魔獣を引き付けないよう静かに速やかに狩っていく。勇者パーティーも一緒に狩っている。ただ普段の狩りと勝手が違うからだろう、少しばかりぎこちない。今も慎重になりすぎて魔獣が一声啼いてしまった。通常の狩りでなら正解なのだけれど、今に限れば勇者様の剣なら今のは多少強引に打ち込んで倒した方がよかった。でも、まだ致命的というほどではないけれど……

「今のは、最後一旦引いたようですが、普段の狩りなら正解ですけど、今の状況なら強引にとどめを刺しに行くべきでした。その間に一声啼かれてしまいましたよね。今は近くに他の魔獣がいないので良かったですけど、もう少し密集していたら袋叩きにあいますよ。それにそれがきっかけでスタンピードが始まってしまったら狩った魔獣の後始末をしてくれている騎士団まで巻き込んでしまいます。慎重かつ大胆にいきましょう」

一応ひとこと言っておく。素直に頷く勇者様に過去の傲慢さはない。やはり経験を積み勇者としても成長している。そうして1日間引きをしてノーリスへの帰還時

「フェイウェル殿とミーア殿は、スタンピード対応はこれで何度目ですか」

「聖国のあれからもうこれで5回目か。大体年に1度……多いな」

黙り込む僕に

「5回もですか。本当に多いですね。手慣れているわけです」

僕の黙り込んだ理由に気付かない様子の勇者様に

「いや、そういう事ではなく、本来スタンピードはこれほど頻繁に起きるものでは無いと思うのです。僕が聞いていたのは数十年に1度程度とのことでしたので」

僕がそう言うと、勇者様も黙り考えこんだ。突然叙爵した僕と違い代々の貴族の勇者様なら何か聞いているものもあるのかもしれない。

「しかし、それにしても……。いや、あるのか」

勇者様は、なにやらブツブツと独り言をつぶやきながら考えている。

「何か思い当たることでもありますか」

僕が聞くと

「確証は無いんでちょっと……。あと森の外に溢れていた魔獣を含めて上位魔獣が多かったのは普通ですか」

言われるまで気にもしていなかったけれど、確かにラーカルのように特に魔獣が上位に偏っている残された森からのスタンピードならともかく、最初に溢れてくるのは下位魔獣のはずだ。

「いえ、僕の対応したスタンピードではラーカル以外では最初は下位魔獣が溢れてきて、徐々に上位の魔獣も溢れてくる感じでしたね」

勇者様はまた考え込んでしまった。しばらく黙って何かを考えていたけれど

「今回聖剣の出番があるかもしれない」

ボソッとつぶやいて部屋に行ってしまった。

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