第101話 ウィンドドラゴン空へ

 ザクザクとした感触を頬に感じながら僕は意識を取り戻した。どうやら生き残れたようだ。僕の魔法耐性はドラゴンの魔法を相手にしてもどうにか僕を生かしてくれた。そして状況を思い出し一気に血の気が引くのを感じる。僕が気を失っているあいだミーアは1人で……。バッっと顔を上げ周囲を確認すると、僕の周りは魔法の余波でだろう地面は抉れ楕円状にくぼんでいる。そして立ち上がった僕の視線の先にはウィンドドラゴンが今まさに体の向きをミーアに向けたところだった。危機的状況ではあるけれど、まだ間に合う、いや間に合わせる。幸いなことにこれまでの攻撃でウィンドドラゴンは脚を大きく痛めていて動きが鈍い。けれど、悠長に走り寄って間に合う状況でもなさそうだ。僕の身体自体が壁になる形で無事だった魔法の鞄からオリハルコン製のブロードソードを取り出し、ウィンドドラゴンに向けて全力で投擲する。本来投擲武器ではないけれど、ブロードソードは狙い違わずウィンドドラゴンの背後から首元に突き刺さった。

「・・・・」

声にならない叫びを上げ、ウィンドドラゴンがのけぞる。僕は、オリハルコンの大剣を手に駆け寄ろうとして、足元をふらつかせてしまった。さすがに多少のダメージを自覚する。それでも、ミーアをひとりにしてたまるかと足を進める。普段なら狩人として攻撃をするときには無言で不意打ちを心がけるのだけれど、今は

「おらぁ、トカゲ野郎、こっち向きやがれ」

ウィンドドラゴンの意識をミーアから僕に引き寄せる。ドラゴンの表情なんて分からないけれど、その動きに驚きを感じた。それはそうだろう、僕自身もあの瞬間死を意識したのだから。だからこそ、僕は虚勢を張る。力の入り切らない身体に鞭を打って今度こそとオリハルコンの大剣を手にウィンドドラゴンに向かい駆ける。ウィンドドラゴンも驚きから復帰しこちらに向かおうとしているが、動きが鈍い。ミーアは十分にウィンドドラゴンにダメージを与えてくれていたようだ。鎌首をもたげるウィンドドラゴン、頭部には僕の剣は届きそうもない。ならば、動きをかいくぐって前脚を狙う。思ったより力が入らない。それでも、前脚に先につけた傷を狙ったため、丈夫な鱗で弾かれることなく切りつけることが出来た。そしてウィンドドラゴンとしては傷に更に攻撃は相当に痛かったのだろう、前脚を上げ逃がそうとする。それでもミーアが後ろ脚に大きなダメージを与え、尻尾を切り飛ばしてくれたおかげでバランスが取れず、大きくは逃げられない。しかし、こちらも持ち上げられた足に有効な攻撃が出来るほど体力が残っていない。そこで、少しのリスクを冒し、今まで左前脚に攻撃をしていたところを反対側に移動を試みる。当然ウィンドドラゴンの顔の前を通るため、その顎の噛みつきや振り下ろしへの警戒が必要。ところがウィンドドラゴンの意識は痛みにいっているのか僕が前を抜けても反応が無かった。いや、それはフェイクだった。通り過ぎた途端に僕の探知に動きがあった。僕は振り向きざま大剣を両手で支え盾にする。巨大なウィンドドラゴンの顎が僕を襲う。振り向きざま突き出した大剣がその顎を遮る。それでもその勢いに僕は押し出されてしまった。このままでは吹き飛ばされる、そう思った時何かが力を貸してくれたように押し返すことができた。そこで更に僕は大剣を振りかぶり顔面に叩きつける。強固なドラゴンの鱗に覆われた顔面に一筋の切れ目が入った。途端にウィンドドラゴンは苦痛の叫びをあげ翼を広げた。地上での戦いでは不利として空に逃げるつもりのようだ。そうはさせないと、僕もミーアもその翼に切りつけようと駆け寄るけれど、わずかに届かずウィンドドラゴンが空に舞った。

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