　僕とミーアは左右に分かれウィンドドラゴンに迫る。ドラゴンは魔法も使えばブレスも吹く。どちらも人間の耐久力では一撃必殺だろう。魔法耐性のある僕だけれどドラゴンの魔法に耐えられるかの人体実験をする気はない。ミーアに魔法攻撃が向けられでもしない限りこの身にドラゴンの魔法を受けるなんてのはゴメンこうむる。魔法以外の攻撃にしてもドラゴン種族、それも真竜のものは祝福で強化されているとは言え狩人の祝福ではとても耐えられるものでは無いだろう。だからこそ、僕たちは最短時間で近接距離まで間合いを詰める。幸いにしてウィンドドラゴンは僕たち人間が自分にダメージを与えられるとは思っていないため油断している。そこにうまく初撃を入れられれば大きなダメージを与えられるかもしれない。それでも大きな賭けであることは間違いない。いくら僕たちの剣がオリハルコン製で、いくら僕たちが師匠の教えを受けていて、いくら僕たちが経験を積んだと言ってもあくまでも人間の枠内。ひょっとするとダメージが通らない可能性もある。ダメージが通っても微々たるものである可能性も……。しかし、ここに至ってそんなことを考えても仕方がない。ミーアとタイミングを合わせフルスイングでウィンドドラゴンの前足に剣で切りつける。硬い、久しぶりに大きな手ごたえを感じる。それでも硬さだけならグラントータスの甲羅の方が硬い。そのまま僕は剣を振り切った。

「ゴゥォォォォ！！」

ウィンドドラゴンの悲鳴が響き渡った。僕の目の前には一刀両断とはいかなかったものの、大きく切られたウィンドドラゴンの前足がある。

「よし、切れる。ミーアは」

ミーアを見ると、少し体勢を崩しているもののウィンドドラゴンの前足を大きく切ることが出来ていた。まったく相手にならないということは無さそうだ。

　そして突然ウィンドドラゴンは後足２本と尻尾で身体を支え立ち上がった。

「ミーア後ろ」

ミーアにはウィンドドラゴンの後ろに回らせ、僕は立ち上がった腹側に向かう。尻尾を支えにしている以上後ろに回っても尻尾を振り回す攻撃は多分ない。なら、ミーアは後ろから尻尾を切るような攻撃を、そして僕は恐らくは一番柔らかい腹を狙う。腹はひとつ間違えればウィンドドラゴンの巨体に押しつぶされる危険地帯ではあるけれど、それだけのリスクを冒す価値がありそうだ。ウィンドドラゴンの頭の動きを見ると僕の方を睨んでいる。どうやら敵意は僕に向いているようだ。ウィンドドラゴンが次の動きを始める前にと急いでウィンドドラゴンの白い腹に剣を振るう。十分な手ごたえだ。しかし連撃はしない。すぐにそこから離脱し、わずかながら距離をとる。目の前でウィンドドラゴンの巨体が地面を叩く。やはり予想通り押しつぶしに来ていた。チラリと見ればミーアも一旦距離を取っている。次は後足を狙うようだ。ウィンドドラゴンの敵意はまだ僕に向いている。なら、今度は少し別のリスクを取ってウィンドドラゴンの頭に向かうことにする。とは言ってもさすがにドラゴンの真正面に立つほど命知らずではない。小回りを生かして側面から切りかかる。さすがに首にまともに攻撃を受けてはくれない。首を振りタイミングを外せば僕の方が吹っ飛ばされる。近づき一振り、即距離を取り追撃してくる首をなんとか躱す。そのまま僕を丸飲みしそうな顎から逃れる。ついでに口の中に１撃入れるのを忘れない。

「おおおおぉぉぉ」

ウィンドドラゴンの雄たけびが響く。”ドサリ”と重い物が落ちる音に目を向けると、ついにミーアがウィンドドラゴンの尻尾を切り落としていた。さすがにウィンドドラゴンの敵意がミーアに向いた。それに伴い首がミーアに向かう。迂闊な行動をしたウィンドドラゴンの首に渾身の一撃を見舞う。首の途中で剣が止まりそうになる。そこにまた何か剣から身体に伝わるものが僕に力を与えてくれた。止まりそうだった剣を振りぬき、ウィンドドラゴンの首が４分の１ほど切れる。これでミーアに向きかけた敵意が再度、僕に向いた。怒りに満ちたウィンドドラゴンの目が僕を捕らえ、その顎が開く。そして、そこには巨大な魔法陣が……