第74話 叙爵

 

 僕とミューはグラハム伯に伴われ、皇帝陛下への謁見に望んでいる。こんな国の偉い人に会うのは聖国に居た頃含めても2回目なので緊張の度合いがすごい。しかも僕たちは皇帝陛下への謁見ということでさすがに仮面をつけていない。その代わりグラハム伯を通して最低限の人間以外は人払いをお願いしてあった。護衛がどうとかいう話もあったようだけれど、僕たちがその気になったら護衛とか意味は無いということで納得してもらったようだ。

 グラハム伯に続いて謁見の間に上がった僕たちは毛足の長いフカフカの絨毯の上をゆっくりと歩いている。目だけで左右を見れば豪華な衣装を身に着けた比較的高齢の男女が20人程左右に立って僕たちを値踏みするように眺めていた。聞いていた通りなら右側にいるのが皇室派で左側にいるのが貴族派のはずだ。聖国で顔を合わせた人間はいなさそうだったのでホッと胸をなでおろす。そのままゆっくり歩いて聞いていた位置で立ち止まり片膝をつき首を垂れる。ここからは声を掛けられるまでは動いてはいけないらしい。

「面をあげよ」

その言葉に僕たちはゆっくりと前を向く。玉座に座っているのがこの国の皇帝クラエス・ロッシ・フクトヴルム7世。齢36歳にして帝国の頂点に君臨する絶対の王。20台後半の若さで帝位につき、その剛腕的政治手法で帝国を掌握したという生きた伝説。それゆえ先帝時代には貴族派が優勢だったのが、現在では皇室派が圧倒している。そしてその状況を更に後押ししているのがグラハム伯の最大戦力としての僕とミューの存在であり、それゆえにこの偉大な皇帝陛下をして僕たちに会いたいと言わしめたらしい。

「ふむ、若いな。年はいくつだ」

皇帝陛下の唐突な問いにやや戸惑いながらも僕とミューは答える。

「21歳になりました」

「あたしは20歳です」

「その年で国中に鳴り響く武を修めるとはな。その働きに褒美をとらせる」

皇帝陛下のその言葉に続き横に立つ典礼官が告げた。

「冒険者ファイ。その業績に対しグリフィン男爵の称号を与える。今後ファイ・グリフィンを名乗ることを許す。それに伴い妻ミューにもグリフィン男爵夫人を名乗ることを許す」

「男爵。僕が」

その言葉に左手からザワつきが聞こえる。どうやら貴族派としては相当に不満なようだ。そこでハッと気づき。僕とミューは首をたれ

「謹んでお受けいたします」

僕はどうにか答えることができた。

「うむ、これからも帝国の剣として励めよ」

との皇帝陛下の言葉を最後に謁見の間を辞した。


控えの間に下がった僕とミューはグラハム伯に詰め寄った。

「グラハム伯。知ってましたよね。知っていて黙っていたのでしょう」

それに対するグラハム伯の返事は

「まあ知らされてはいなかったが、予想はしていたかな」

そう言った後を続けた

「お前たちのその強大すぎる武力は、どこにも所属しないとなると、潜在的な脅威とされてしまう。爵位を与えて国の組織に組み込みたかったんだろう。なに心配はいらない、形だけだ。今まで通りで行けるさ」

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