第70話 森から溢れた魔獣を狩るだけなら
僕たちは今残された森の近くで魔獣の様子を見ている。サポート部隊として騎士団1部隊がついてくれている。
「ああ、結構森から溢れて来てますね」
なぜか自らサポートについてくれているルーカス騎士団長に声を掛けた。
「そうですね、まだスタンピードには猶予はありそうですが」
「まだ、森から溢れただけで街にむかってないですもんね」
ミューもそのあたりは理解してる。
「あの、ひょっとしてお2人は、スタンピードもご経験があるのですか」
僕もミューもその質問には答えることができない。なので
「冒険者の過去を詮索するのはタブーですよ」
と指摘して誤魔化す。そして
「溢れてきているのは、概ね中位魔獣。上位魔獣は……ああ2体ほどいますね。ミューあれからやろうか」
「うん。競争」
「よし」
僕たちは新調した剣を抜いた。僕は右手にブロードソードを左手にハンド・アンド・ハーフソードを、ミューは以前は短剣を使っていたけれど、今では両手に90セルチ程の片手剣を装備している。すべてが金色に輝くオリハルコンの剣だ。
「ゴー」
僕たちは2体の上級魔獣目指し駆け出した。途中の邪魔な中級魔獣をすれ違いざま首を飛ばし、胴を断ち殲滅しながら駆ける。目指すは2体の上位魔獣キュクロプス。先にたどり着いたのはやはり上位の祝福持ちの僕。1年前ならば、討伐にそれなりの手数を必要とした上位魔獣だったけれど、今の僕たちの力ならどうだろう。一気に接近し、右手のオリハルコンブロードソードを振るう。ほとんど抵抗を感じることなく上半身と下半身を泣き別れにすることが出来た。僅かに遅れミューが防御しようとした腕ごと首を飛ばすのが見えた。
「ふふ、僕の勝ちだね」
「ちぇえ、ファイが露払いしながら走ってくれたから勝てると思ったんだけどなあ」
そんな雑談をしながらゆっくりと騎士団の元に戻る。
「あ、あの今何をされたのですか」
ルーカス騎士団長が夢でも見たかのように呆然と聞いてきた。
「何って見ていたでしょう。魔獣を剣で切り飛ばしてきただけですよ」
ミューの答えにルーカス騎士団長は更に困惑を深めたようだ。
「上位魔獣の首とか胴っていうのは、あんな簡単に切り飛ばせるものなのですか」
「まあ、さすがに今のレベルになったのは師匠の指導があったからですね」
「さすがは剣聖ブランカということですか」
「それ以前だとさすがに上位魔獣を倒すのに5手くらいは必要でしたから」
「もはや何も言いません。剣聖ブランカがあなた方を万の軍勢に勝ると言い、グラハム伯が強力な援軍と呼んだわけが分かりました。今後のサポートはお任せください。あなた方が存分に動けるよう全力を尽くさせていただきます」
「ルーカス騎士団長、僕たちはしがない冒険者です。そんな畏まらないでください」
ルーカス騎士団長は困ったような顔をしつつ
「わかりました。しかし、せめて私をルーカスと呼んでください」
また面倒な予感がしたけれど、ここは妥協するところだろう。
「わかりました、ルーカスさん」
ちょんちょんとミューが僕の肩をつついてきた
「話はおわりよね。で、今日はどうする。森からあふれた魔獣を狩るだけならスタンピードのきっかけにはならないと思うんだけど」
ミューの言う通り森の中に入り込まなければスタンピードを刺激することはない。そこで
「よし、今日は時間の許す範囲で森からあふれた魔獣を狩ろう。いいですよねルーカスさん」
「は、はい。サポートさせて頂きます。おい、第1騎士団を全員呼び出せ。この人数では処理が間に合わん。いや、第2騎士団は、今日は警備か。第3騎士団も呼べ」
空が茜色に染まり良い時間になったので
「ルーカスさん、今日はこのくらいにしますか」
見える範囲は大体綺麗になったので良いだろう。
「え、ええ。お疲れ様です」
「じゃあ、ここからは僕たちも後始末しますよ」
「い、いえ、その。これだけ綺麗に討伐していただいたので、今日のこれらは素材として処理しようと思います。スタンピード本番ではさすがにそんなことを言っている余裕はないでしょうけれど、ラーカルも近いですし、今回の分は利用できますので。ですから気になさらず、今日はもうお休みください」
「そうですか。ではお言葉に甘えて、先に休ませていただきます。明日からは森の中の魔獣を少しずつ狩るつもりですので、よろしくお願いします」
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