第50話 貸し

「ギルドの情報にあった出没地点は、だいたいこのあたりだよね」

「たぶん」

ミューの返事が微妙だ。

「ミュー、どうかした」

「フェ、ファイってば結局受けちゃうんだもの。正体がバレるのを避けるって言いながら困ってる人を見ると手を差し伸べちゃうのよね」

そう話す僕たちの腰に下がっている剣はどれもミスリルの剣だ。僕にはミスリルの片手剣2本、ミューにはミスリルの短剣を2本ギルドが都合をつけてきて持たせられた。というか、これを貸し出すから受けてくれと懇願された。結局名前を出さず、流れの冒険者が受けた事にする事を条件に受けたわけだけれど。

「ま、ギルドに貸しを作ったと思えばいいかと思ってね。それにしてもキャスリーンさんがギルドマスターだとはね」

「うん、驚いた」

僕たちは目的の場所を確認しながら小声で話している。探知も全開で展開しているので声が聞こえる範囲に魔獣がいないのは分かっているけれど、念のためだ。そして、その場所を確認している間に無意識に狩人としてのモードに入り言葉のやり取りがなくなる。ハンドサインと目線で意思の疎通を図る。木の枝がまとまって折れ、折れた枝に赤い毛の束が引っかかっている。下生えに踏みつけられた跡を見つけた。ここでレッドジャイアントの群れがしばらく休んでいたのはまず間違いない。レッドジャイアントの習性としてある範囲をテリトリーとして群れで巡回する。ここで待ち受ければ間違いなく待ち伏せは出来るだろう。

僕はハンドサインで15を示す。ミューはそれを見て頷いた。下生えの踏みつけられた具合と枝の折れ方、毛の付着した具合から奴らは東から来てここで休み、北に向かったようだ。それがおそらく15日くらい前。大体20日から30日でテリトリーを1周するのでここで待っていては5日から15日は待つことになる。それでは期限に間に合わない。そこで僕は東を指さし移動を始めた。ミューは頷いて2メルドほどの間隔をあけてついてくる。さすがにレッドジャイアントの移動ルートだけあって魔獣がほぼいない。野生の本能で危険を感じて移動ルート周辺から逃げている。僕たちは気配を最大限消し、レッドジャイアントの移動ルートを逆行する。初日は発見できないままに日が暮れた。僕たちは夜目が効くのでこのまま移動をしてもいいのだけれど、疲労した状態で戦闘になるのはできれば避けたかった。このため、レッドジャイアントの移動ルートから少し離れたところで野営の準備をする。念のため、移動ルートに簡単な罠を設置しておく。丈夫な蔓と近くの木の弾力を利用した罠で、これに掛かればレッドジャイアントといえど逆さ吊りになる。そんな罠を10個ほど即席で作ったうえで休息をとる。いつもの通りミューに最初の3時間の見張りを任せ、そのあと朝までを僕が見張りをする。僕たちの基本ルーティンだ。

 翌朝、保存食と水だけの簡単な朝食を済ませ罠の近くに鳥の羽で印をつけ、罠自体はそのままにして移動を再開する。そろそろだと思うのだけれど。

 昼過ぎ、軽い昼食を済ませ移動を開始した直後に探知に魔獣5、6頭の群れが引っかかる。ちょうど移動しようとする方向だ。数からしてもハグレではないし、間違いないだろう。少し戻り罠を設置する。あまり時間を掛けられなかったので今回設置できた罠は8個だ。やはり鳥の羽で印をつけさらに戻り。200メルド程もどったところでルートから外れ、風下に回りこんで罠を設置した場所を見張る。本来なら、ここで弓を準備するところなのだけれど、今の僕たちは弓を使う狩人ではなく軽戦士。なのでどうしても剣で仕留めるしかない。しばらく待っていると来た。5頭のレッドジャイアント。何かを気にしている感じで周囲をキョロキョロと見回しながら移動している。やはりさっきの今じゃ匂いが残っているか。それでも徐々に移動して、罠を設置した場所に……。2頭掛かった。他の3頭もパニックになっている。そのスキに風下を回って後ろをとり切りかかる。まずは罠にかかった2頭に気を取られている3頭のうち2頭の首を刈る。ミューが手前のやや小ぶりな1頭を、僕がその向こう側の1頭を。2頭が倒れたのに気付いた残りの1頭が僕たちに牙を剥く。罠もレッドジャイアント相手ではそう長くもたない。はやいところ始末をつけよう。

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