第27話 傲慢

「失礼する」

病室に入ってきた騎士服の美丈夫。僕たちは見覚えが無く。

「えと、どちら様でしょうか」

僕が尋ねると。

「これは失礼した。私はダニエル・バリー・シンプソン、聖騎士団副団長を務めさせていただいている」

「ご丁寧にありがとうございます。僕はフェイウェルといいます」

「あたしはミーアです」

言いながら僕とミーアは居ずまいを正す。

「いや、かしこまる必要はない。入院中の治療院に訪問している不作法は理解しているつもりだ」

随分と偉い人の訪問だなと考えて

「で、その副団長殿が一介の狩人にどのようなご用事でしょうか」

こんな言葉遣いでいいのだろうか。副団長殿は呆れたような面持ちで

「貴公らが一介のなどと言われては、我々こそ塵芥となってしまおう」

このように言われても僕たちは困惑するだけ。

「あなた方聖騎士団こそ、日々人々のために働いておられるじゃないですか。僕たちは狩りで日々の糧を得、時に神の恵みで予期せぬ獲物を得られたときに少し贅沢をという生活をしているだけのただの狩人にすぎませんよ」

ダニエルさんは本気で驚いた表情をして

「いや、ただの狩人は、スタンピードで前面に立って村人を守ったりせぬし、スタンピードをたった2人で抑え込んだり出来ぬよ」

「村人を守ったのは村の最大戦力が僕たちだったからです。それにスタンピードを抑え込んでなんかいませんよ。本流から分かれて追いすがってきたものに対処しただけです」

一瞬訳が分からないという表情になったダニエルさんは、次いで納得のいった表情に変わり

「なるほど、そのように誤解しておられたか」

「誤解ですか」

「うむ、貴公らが本流から分かれてきただけと思っている魔獣だが、あれは本流であるよ」

「え、でも確かに本流を抜けてから迎え撃ったはずです」

「いや、間違いなく本流だ」

「そんなバカな」

「よく考えてみるがよい。貴公らはいったい何体の上位魔獣を倒されたか」

「二人でなら150か、いや200は超えるか……ん」

「聖騎士団で確認できたのは263体である。中位下位の数は数え切れておらぬ。気付かぬか。枝分かれした先のたった二人の人間を襲うためだけに200を超える上位魔獣が集まるわけがなかろう。それは本流が流れを変えそちらに移動したことを示しているのだ。それを貴公らは、たった二人で支え切ってみせた」

「ということは、村や聖都へのスタンピードの影響は」

「村?ああ、アークガルズの件か。アークガルズへはさすがに多少の魔獣が侵入したためいくらかの家屋や畑に被害があったようだが、壊滅とまではいかずにすんだようだ。聖都に関しては、それこそ小型の魔獣が少々来た程度で聖都に待機していた聖騎士団で被害無く対応できた」

「では、村から避難した人たちは」

ダニエルさんは、そこで初めて暗い表情を見せた。

「生還者34名。重傷者7名、軽傷者10名」

「く、それならいっそ僕たちが囮になってみんな村に隠れていたほうがよかったのか」

僕の胸を後悔が抉る。

「いや、その場合、単に村と貴公ら双方を同時に襲っただけであろう。その場合、村人には更に過酷な運命が訪れたと推定できる。貴公らの対応はベストであったと我々は考えておる」

そうかもしれない、でも何かもっと良い方法があったのではないか。そんな想いが僕の胸を締め付ける。

「フェイ」

そんな僕を気遣ってくれたのだろう。ミーアが僕をそっと抱きしめてくれた。

「フェイウェル殿。もし貴公がもっと良い方法があったのでは等と考えているのであれば」

「あれば」

僕がオウム返しに問うと

「それは、傲慢だ」

「なぜ」

「どんな高位の祝福を賜ろうと、どれほど努力を重ねようと、人は人でしかありえぬ。なれば過去を変えることは出来ぬ。そもそも神ならぬ人の身なればすべてを見通すことなど叶わぬ。その時の最善を尽くすしかないのだ。過去を顧み未来の礎とするならばよい。しかし、過去の自らの行いを悔いるのみならば自らを神とでもしようとする行為である。なればこそ傲慢と言った」

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