第24話 赤く輝く狂気の瞳

 その日の魔獣の襲撃は非常にスムーズに撃退できた。ティアドさんの遊撃も嵌った、僕とミーアの弓もより効率よく魔獣を打ち抜いた。でも、きっとこれは僕とミーアの心の在り方が、お互いを本当の意味でパートナーと認めたから、今までは無意識に無理をしていたところを任せるところは任せ、逆に引き受けるところは引き受ける、その微妙なラインがより最適化されたからに思えた。


「フェイ、ミーア。昨日も二人の息の合い方は素晴らしかったけれど、今日はまた格段に良くなったな。何かあったか」

ティアドさんの声に、僕は

「特に何かって事は無いですけどね。ただ改めて僕の背中をミーアに預ける、ミーアの背中を僕が預かる、そんな覚悟をお互いにしたくらいですね」

それを聞いたティアドさんの表情がとても嬉しそうで、それ以上は聞かれなかった。


 夜、僕はベッドでミーアを抱きしめながらミーアに話した。

「あと2日。耐えられればきっと騎士団が来てくれる」

「うん、フェイと一緒ならあたしは大丈夫」

そしてその日僕たちは抱き合って眠った。


 翌朝もいつも通りに目覚め、まだスタンピードが起きていないことにホッとしながら朝食と矢の補充を行い、村の見回りをした。僕の気のせいだろうか、なんとなくピリピリとした雰囲気を感じる。色々と観察をしてみるけれど普段との違いは分からない。村の人たちは緊張感はあるけれど、笑顔で作業をしている。探知を広げても何かが引っかかるわけでもない。念のためと森と境界線まで出向いて探知を展開してみたけれど、ここでもやはり何も引っかかるものは無かった。気にかかるけれど、何を確かな証拠はない。それで騒ぎ立てるわけにはいかない。モヤモヤしたものを抱えたまま一度僕は家に帰ることにした。

「ただいま」

「おかえりなさい。どうだった」

帰宅した僕をミーアがハグで迎えてくれた。

「異常は見つからないんだけど、何か気持ちの悪いピリピリしたものを感じるんだ。でもそれが何なのかわからない」

「あたしには感じられないけど、家の中でも感じるの」

ミーアが聞いてくるので

「うん、家の中でも外でもあまり変わらない」

気のせいなのか、それとも銀と黄の祝福の違い、それとも別の……。それでも分からないならそれはそれでとミーアは

「分からないものに悩んでいてもしかたないわ。とりあえず、何かあったときに不調なんてことにならないように、食事をしておきましょ」

「あはは、そうだね。エネルギー切れでイザという時に動きが悪いなんてことになったら馬鹿らしいからね」

僕たちはミーアの準備してくれていた昼食を食べ、むやみに疲れをため込まないようにするため、できるだけリラックスして待機することにした。

 しばらく待機していると、いつものように騒がしさが聞こえてくる。

「ミーア、行くよ」

「はい」

僕たちは手早く装備を身に着けて村の北へ向かう。途中でティアドさんと合流し先ほどの気持ちの悪い感じを話した。

「うーん、ピリピリする気持ち悪さね。私にも感じられないな」


村の北柵の持ち場について、

「じゃあ、昨日と同じ打ち合わせ通りに」

と、魔獣が現れるのを待つ。森の境界を見るとやはり昨日より魔獣の色が濃い。

「昨日よりも魔獣は多いですね。でもまだスタンピードって感じではなさそうかな」

今のうちに意思疎通をしておく。

 しばらく待機していると「来た」。ここからは言葉は不要。ひたすらに狩る。やはり数は多い。けれど手前の魔獣を倒すと後ろの魔獣が一瞬の戸惑いを見せる。だからまだ余裕がある。僕たち3人で問題なく守りきれた。

「やはり、フェイとミーアのコンビネーションは素晴らしいな。これこそ狩人夫婦と安心していられるよ」

ティアドさんが一息入れるように近寄ってくる。けれど、

「まだです。まだ来ます」

僕は警告をする。森との境界に次々と現れる魔獣。先ほどまで襲ってきていた群れとは雰囲気が違う。瞳が赤く輝き狂気を宿している。

「スタンピードです」

装備は良い。ならば射程距離に来る前に……

「ミーア」

僕はミーアに水筒と干し肉の入った革袋を投げる。

「少しでも腹に入れて水分補給をしておけ」

もちろん、僕自身も干し肉を齧り、水筒からぬるくなった水を飲む。僅かでも生き残る可能性を高めるために体調を整えエネルギーを蓄える。見ればティアドさんも何かを頬張っている。さすが経験豊富な狩人だ、そつがない。

「長い1日になりそうだ」

僕はぽつりとつぶやいた

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