第4話 もう1人の幼馴染(ミーアの気持ち)

「ブルーローズの幸せを」

その言葉を聞いた勇者様がピクリと反応した。僕から彼女を奪ったのだ、この程度の嫌がらせは構わないだろう。神様からいただく職業・称号は色々な補助をしてくれる。神様からいただく職業・称号は”通常は”1つで戦士なら大きく重い武器を扱えるように力等に祝福の補助補正がつく。鍛冶なら器用さや材料を見極めのための祝福の補助補正などだ。僕の狩人は弓をはじめ狩りに使う多くの武具の使用、遠くまで見通せるように視力や夜間でも狩りの出来る夜目等いろいろ便利な祝福をいただいている。そして実はそれぞれの職業には色による順位がある。上位から金、銀、赤、黄、青、そして最下位の白。伝説上では金の上に光という位も語られているけれどそれが”公式に”確認されたことはない。職業・称号を神様からいただくと補正により一般人とは桁違いの実力を発揮できるようになる。たとえ最下位の白の祝福でもその祝福をいただいていない人が50人集まっても勝てない程度には差があるのだ。下位から2番目の青であっても10万に1人以上の希少な勇者様なのだ。僕の狩人の位は銀。おそらくこの世界で僕より狩人の適性のある人は10人もいない。そして実は同系列でより上位の職の人からは下位の人の色が見える。色が見えないのは職・称号が別系統か同位以上であることを示す。だから僕は勇者様に暗に”あなたは青の勇者だよね”と投げたのだ。不思議に思っただろう狩人の職業祝福をいただいている僕に色を見抜かれたのだから。でも聞くことはできないはず。それを聞きただすという事は自分が僕より下位である可能性を自ら認めることになるのだから。帝国のヘンゲン子爵家の長子でもある自分が平民のそれも狩人ごときの下だなどと認める事は出来ないだろう。それにここは帝国ではない。世界で唯一中立な聖国のしかも聖都の近くの村だ。個人的な諍いでコロシアムを使う程度ならともかく、これ以上の騒ぎにしたなら大変なことになるのはわかっているのだから。

 そして勇者様御一行を送り出し。僕たちの村はいつもの生活に戻った。そこにアーセルがいないだけで。

 あれから3か月ほどが経ち、僕はと言えば、日々狩りで糧を得、淡々と静かに暮らしていた。

「勇者パーティーは、まだ聖都近くの森でウロウロしているらしい」

そんな噂を聞いては少し寂しい気持ちになったりしながらも平穏に暮らしていた。そんなある日、僕は村長に呼ばれ

「フェイ、気持ちは落ち着いたかい」

おそらくは、気になっていてもっと早い時期に声を掛けたかったのだろうけれど、僕とアーセルの歴史を想い時間をおいてくれたのだろう。優しい村長だ。

「ええ、気持ちの整理はついたつもりです」

となれば村のために、村長としては僕という優秀な狩人の血を村に残すことを考える。

「ミーアの事は知っているな」

そんな事を言い出す。ミーアは今年15歳になった赤毛で子犬のような愛くるしいタイプの女の子。父親は村では僕に次ぐ2番目の腕の狩人。年も近いので小さい頃は僕たち3人でよく一緒に遊んでいたものだ。

「ええ、小さい頃はよく一緒に遊んだ仲ですから」

何を言いたいのか予測がつくけれど、僕は何も言わずに村長の目を見て言葉を待つ。

「ミーアを娶るつもりはないか」

やはり、そうだった。村長としての立場では当然の言葉だろう。

「ミーアの事は嫌いではありません。でも、落ち着いたとは言ってもアーセルの事はまだ忘れられません。もう少し時間をください」

「そうか、そうだろうな。あれだけ仲睦まじかった二人だからな。まだ早かったか」

そこに控えめな声が聞こえた

「フェイ、忘れてなくてもいいよ。ひとりで抱え込まないで。一緒になってから少しずつ忘れていってくれればいいから」

「ミーア。ありがとう。でも僕はミーアをアーセルの代わりにしたくない。ミーアと一緒になるのなら、ミーアをちゃんと見てからにしたい。今のままじゃミーアを傷つける……」

「フェイ、やっぱり優しいね。でもね、ひとつだけ忘れていることがあるよ」

「忘れていること」

「そう、あたしの気持ち」

「ミーアの……」

ここまで言われれば、いくら鈍感な僕でも気づく。そうかミーアは僕の事を

「あたしはフェイ、いえフェイウェルの事を愛してます。アーセルがいるときは諦めていた、でも……」

わざわざ僕をフルネームで呼んだミーアをそっと抱き寄せた。

「ごめんね、気付けてなくて」

ミーアは、一瞬ビクッとかたまり、それでもすぐにふにゃりと身体を預けてきた。

「ううん、謝らないで。それより一緒にいさせてほしい」

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