お題「静かな神社」「翡翠」「高校生」

 蝉の季節が過ぎた古い神社は、鳥居をくぐったあたりから心身とも心地よい静謐に包まれる。

 ……ああそうだ。『静謐』という言葉を使ってみたかった俺は中学2年生。


 打ち捨てられた手水舎に溜まった水は、底の苔のせいで翡翠色に輝き、やけに寂寥を感じさせる。

 ……ああそうだ。『寂寥』という言葉を使ってみたかった俺は中学2年生。


 ひどく勉強が苦しくなって、この神社に逃げてきたんだ。ちょくちょく逃げる。こんなことしてたら高校生になって忸怩たる思いをすることになるだろう。

 ……ああそうだ。『忸怩』という言葉を使ってみたかった俺は中学2年生。


 ――中学2年生がかかる病に冒された、中学2年生。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る