お題「移動要塞」「花束」「詠む」
西暦二〇XX年、人類は危機に瀕していた。
突如現れた巨大外来生命体『宇宙植物』によって。
さらに人類を絶望させる事実が公表された。
宇宙植物は、もとは地球に生えていた植物だったということ。そして、宇宙空間での品種改良実験や、新型の除草剤の試験の末、宇宙に廃棄された植物の成れの果てだということだ。
その姿はまるで、人類に好き放題蹂躙された植物たちが、復讐のために舞い戻ったかのようだった。
突如として地上から目視できる高空、軽やかな初秋の雲間にそれは現れた。
地上から見た限りでは空に浮かぶ花束のようにしか見えなかったが、それはつまり、相当巨大であるということの証左だ。
オクラ型移動要塞。
今まで宇宙空間において最優先目標として撃破されてきたはずのそれが、ついに地球の重力圏内に現れたのだ。
最終防衛ラインを守っていた亜宇宙艦隊は全滅したと聞く。
「きれいだなー」
幼い子供がクリーム色の可憐な花を指さして無邪気に笑う。
だが、大人たちは知っていた。
その花が咲き終えたとき、種を満載した巨大爆弾が地表に降り注ぐことを。
陸上から目視できるほどのオクラだ。直撃を免れたとしても、その種から生える巨大オクラによって土はあっという間に養分を吸いつくされ、一面の砂漠と化すだろう。
気の早い人々は、荷物をまとめて逃げ支度を始めていた。
「一体、どこへ逃げると言うんだ……」
一人の老人がポツリと呟いた。
「ここまで近づかれては、もう逃げ場はない。命があるうちに、あの空に咲いた花を愛でるのが関の山だ」
パニックが始まった町中で、空に浮かぶ花束を眺め続ける老人。
「よくよく見れば、結構可憐な花じゃないか。どれ一句……『オクラの実』いや、『オクラ咲く』か……」
心安らかに諦観を詠む者と、足掻く者。
どちらが満たされた最期だったかは、本人にしかわからない。
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