なぜか学園一の天使に、俺はストーカーされてる!
コータ
第一章 天使との接点
第1話 天使に触れた日
俺が通う学校には、翼がない天使がいる。
もちろん比喩表現なのだが、みんなから半ば本当に天使ではないかと思われていて、容姿端麗で成績は全て最高、運動神経も抜群、高校一年生にしてスクールカーストのトップに躍り出た……そんなチートキャラじみた女子は存在する。
彼女の名前は
茶色のロングヘアーと小さな顔、透き通るような肌とスレンダーな体躯は遠目から見ても一際目立ち、すれ違えば誰もが振り返ってしまう程だった。テレビやネットで観るアイドルよりも可愛らしい顔立ちをしているが、何となくクールそうでもある。
海原と俺は同級生だがクラスは違い、一度も会話なんてしたことないが、彼女の話題は自然と耳に入ってきた。何度か廊下ですれ違うことはあったが、話しかけてもきっと無視されると思い、努めて声をかけないようにしている。クラスではイケてる高スペック男子が女の子にキャーキャー言われているし、きっと海原もそんな男子連中が好きに違いないと思う。
入学して以来俺は、自分のように孤立して机で寝たふりをしている男子なんて、誰も相手にしてくれるわけないじゃんかと、卑屈な考えに囚われ続けていた。
高校時代……それは誰にとってもかけがえのない大切な思い出で、いつまでも記憶に残るような光り輝くもの。
そんな風に思える人間が、この世界にはきっと沢山いるんだろうけど、少なくとも俺、
何故かといえば俺は高校生活において一番辛いであろう、ぼっちという悲しい存在になってしまったからだ。
中学校時代から人見知りで話し下手、更には暗い人間だと思われぼっち街道を突き進んでいた俺は、この中途半端に都会で、かつ中途半端に田舎でもある街で、有数ともいえる進学校に入った時に人生を変えるつもりだった。まさか合格するなんて夢にも思わなかったし、合格者名簿の中に自分の名前が入っていた時はマジで泣いた。これで暗黒の中学生時代を払拭できるなんて夢を見ていたのだ。
でもいざ高校生活が始まってみると上手くいかなかった。友達はできないし、彼女を作るなんてまるで夢見話に思える。そもそも彼女なんていた時期すらないから、悲しい十代の理想的なモデルといえるだろう。
そんなわけで俺の高校生活は、深い闇に包まれた黒歴史そのものになって過ぎ去っていくだけ……かと思われた。
しかし人生には不思議なことが起きる。
強いていえば赤点スレスレのテスト用紙以外に何もなかった俺の高校生活が、ある日から少しずつ変わっていくことになったんだ。
いつも通りの朝、普段と変わらず俺は校舎の階段を駆け上がっていた。計画性がなく朝に弱い為、日常的に遅刻と隣り合わせの毎日を過ごしている。たった一つだけ違うことと言えば、二階へと続く階段を駆け上がっている女子が目の前にいたことだ。
「あ……」と思わず声に出してしまう。
遅刻という言葉とは全く縁が遠そうな優等生、海原春華が焦り気味に階段を駆け上がろうとしていた。入学して以来初めての光景であり、もしかしたら今後ないレア経験かもしれない。ほんの少し先を駆け上がっているセーラー服のスカートがめくれ、下着が見えてしまうのではないかと、俺は正越ながら目が釘付けになってしまったが、予想していたこととは別の展開が起こる。
「きゃっ!?」
海原の小鳥みたいな声が一瞬だけ耳に響いたと思った時には、彼女は踊り場まで上りきる筈だった階段から足を踏み外し、学校の校舎にしては段数のある階段から落ちようとしていた。
「お、おい!?」
自然と口と体が動く。気がつけば俺は、後ろ向きに倒れかかった彼女を抱きとめていた。完全に落下する直前のところをしゃがみ込み、なんとか衝突を防ぎそのまま持ち上げる。
「あ……あの」
海原は何かを言いかけていたが、言葉にできずに目を見開いて固まっている。ずっと抱き上げていたままの俺ははっと我に返った。そうだ、これは俗にいうお姫様抱っことかいう奴じゃなかったか。慌てて彼女を安全な踊り場に下ろすと、今度は自分が犯罪者にでもなったような気分で立ち尽くしてしまう。
いやいや、遅刻しちゃうだろ秋次、早く行けって。普段ならそう考え、気を取りなおして教室へのダッシュを再開するところだが、今回は相手が相手だった。まさかあの海原を抱き上げてしまうなんて、こんなことってあるのかよ。俺と同じように彼女もただ呆然としていた。二人ともHRのことをすっかり忘れ、ただただ目前の相手を見つめているようだった。
「……おうじ……さま……?」
海原の口から出たのは、多分こんな言葉だったと思う。ここは申し訳ないんだけど、あんまりはっきりとは覚えていない。
だって俺はあまりにも気が動転していて、頭を掻くような仕草で言葉を探していた時、うっかり足を踏み外して階段を転がっていったのだから。目まぐるしく回る視界、意識とは無関係に階段にぶつかりながら落下していく体。あまりにも突然にやってきた命の危険。
「う、うわああああ!」
「きゃあああっ!?」
唐突な接触からのブラックアウト。なんて間抜けで、アホみたいな失敗をしてしまったのだろうか。
とにかくそれが、俺と海原春華が話をするようになるきっかけだった。
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