第40話 ダミニの強襲作戦

「作戦とは何をされるつもりなのですか?私達も城壁を炎上させてその隙にララアやハヌマーンさんを救出しようと思っていたのですけど」


ヤースミーンが生真面目な雰囲気で尋ねると、ダミニはにやりと笑う。


「簡単ことです。ガイアレギオンの軍内にはムメモシュネ様やハヌマーン様を慕う士官も多いので私が呼び掛けて決起を促したのです。反乱部隊は既に首都に集結しつつありますが、肝心のお二人と神輿に担ごうとしているララアさんが殺されては話にならないので、これから少数精鋭部隊で救出作戦を敢行するのです。まずは私の雷撃で王宮の門を打ち砕き騒ぎが起きたすきに三人を救出するつもりなのです」


貴史はダミニの作戦がヤースミーンと同レベルだったので微妙に落胆しながら彼女に尋ねる。

「でも、ムネモシュネさん達はガイア派の手の中にいるのでしょう?下手に攻撃を掛けたらその場で殺されるのではありませんか?」


それは、ヤースミーンの強襲作戦にも共通して言える問題点だったが、ダミニはさして気にする雰囲気も無かった。


「ハヌマーン様とムネモシュネ様が一緒に暴れたら、数千の軍勢が取り囲んだとしても制圧することは難しいでしょう。お二方はガイアさまの出方を探る意味もあって招待に応じたはず。頃合いを見て私たちが騒ぎを起こしたら事態を察して脱出するはずです。問題はその後ですね」


「どんな問題があるのですか?」


ヤースミーンはあまり聞きたくもない雰囲気でダミニに尋ねた。


「ガイア様はムネモシュネ様をはるかに凌駕する強力な魔法の使い手なのです。特にガイア様はマッドゴーレムを使いこなすので、数万の大軍を相手にしてもあっという間に無力化するほどの能力を秘めておいでです。最終的にガイア様と対決して葬り去るのか、何か条件を出して停戦し共存できる道を探るかをムネモシュネ様は悩んでおいでのはずです。何せ肉親なのですからね」


貴史はハヌマーンが攻め寄せた時に、陽動部隊として別行動したララアがマッドゴーレムを使ってハヌマーンが指揮する軍団に大損害を与えたことを思い出した。



ムネモシュネ陣営にいるララアがマッドゴーレムを使えたら戦力は均衡するかもしれない。


「ララアがマッドゴーレムを使うことが出来ますよ。上手く救出することが出来たら、こちらにもマッドゴーレム使いがいると教えたら、戦いにならず交渉に持ち込むことが出来るかもしれませんよ


「ララアのマッドゴーレムは凄まじい破壊力を発揮したのですが、ハヌマーンさんが引きちぎってしまったのです。新しい物を作ればきっと使うことが出来るはずですよ」


貴史とヤースミーンが口々にララアの能力について話すが、ダミニは首を傾げた。


「私は良く知りませんが、マッドゴーレムは特殊な呪符を使って動かすもの。そう簡単に新しく作ることが出来るものではないはずです。それよりも、私たちが立ち話している間にムネモシュネ様たちの身に危険が及ぶかもしれません。救出作戦の発動を急ぎたいのですが、あなた達も陽動に一役買ってもらおうかしら。ムネモシュネ様やハヌマーン様の救出には私たちの選りすぐりのコマンドが当たりますから。私と一緒に派手な攻撃をしてくれると助かります」


ヤースミーンはダミニの提案に乗り気の様子だった。


「私は火炎の魔法で城壁を炎上させようと思うのです。ダミニさんが王宮の正門を攻撃し、私が裏手から火炎で攻撃するのではどうでしょうか」


「陽動作戦は派手な方がいいわね、裏手からの火炎攻撃を願いします。それでは私達はコマンドの潜入を開始しますから火炎攻撃は10分後にお願いします」


ダミニはヤースミーンに答えると片手をあげて合図し、黒ずくめの男たちがかぎづめの突いたロープを投げて王宮の城壁をよじ登り始める。



ダミニはコマンド以外の自分の軍勢を率いて王宮の正面にある城門に向かった。


そこでは衛兵が城門の警備にあたっており、ハヌマーンたちを招いたためか閉じた城門の前にもいくばくかの軍勢が待機しているのが見える。


ダミニは呪文を唱えてから自分の右手を大きく振り上げ、無言の気合と共に振り下ろす。


周辺では星空が見えていたのだが突然の雷鳴が鳴り響き、城門の左右に聳える物見やぐらの一つを稲妻が直撃した。


数十メートルの高さを誇っていた物見櫓はダミニの雷撃を受けて中ほどから折れると、素材の石材をまき散らしながら轟音とともに崩れ去っていく。


ダミニの右手がもう一度振り下ろされると、強烈な閃光と共に稲妻が内部に閂を施された頑丈な門を内側に開いていく。


ダミニは城門が開放されたところを見て取ると王宮側の軍勢に進み出てよく通る声で叫んだ。


「我が名はダミニ!ハヌマーン様の配下のものだ。女王ガイアは不当にもムネモシュネ様とハヌマーン様に逆賊の汚名を着せ粛清しようとしているが我々はそのようなことを看過するわけにはいかぬ。お二人の身柄を無事に引き渡さなければ、王宮と言えども我らの軍団が蹂躙し力ずくでもお二人を奪還するからそう思え!」


城門の外側で警備にあたっていた兵士たちは恐慌に捕らわれて我先に城門の中に逃げ込み始めた。


ディフェンス側は不利な条件に立たされるのが常なので、一旦場内に戻って体勢を立て直そうとしても責められる場面ではない。


しかし貴史は陽動作戦と言いながら正面から王宮の軍勢相手に啖呵を切るダミニにあっけに取られていた。


「陽動作戦というよりも正面から攻撃を仕掛けているじゃないか」


「ぼんやりしていないで私たちも王宮の裏手に向かいましょう。ダミニさんが城門から正面攻撃をかけて裏手で私たちが城壁を燃やせば、ハヌマーンさんたちに多くの兵士を張り付けておくわけにはいかないはずです」


ヤースミーンは貴史の腕を掴んで走りはじめ、貴史達一行はヤースミーンに率いられて城の裏手に向かう形となった。

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