異世界酒場ギルガメッシュの物語3

楠木 斉雄

第1話 シーフードの魅力

リヒターが率いるドラゴンハンティングチームは南へと進んでいた。


チームの中でも重要なセクションはドラゴンと正面から戦い最後はとどめを刺すのが役目の刃刺しを務める貴史と、貴史を援護するためにドラゴンの足を止めるトラップなどで補佐する捕獲班のメンバーだ。


捕獲班の他には、倒したドラゴンを素早く解体し、商人に売り渡せる形に加工する処理班や、商人たちと連絡を取り、必要なら隊商に依頼してドラゴンを売りさばく営業班も存在する。


そして、長期間にわたって捕獲を継続する場合は隊員の移動や生活に関してまとめて面倒を見る総務班も存在する。


それ故、ドラゴンハンティングチームはちょっとした村レベルの集団がキャラバンを組んで移動することになるのだ。


キャラバンは今やヒマリア国の国境を越えて人里がまばらな辺境を旅していた。


「シマダタカシの旦那、この先には小さいけれど漁業をしている村がありやす。水や食料をはじめとして、日常品の補給もできるのでいったん村の近くに逗留して森に潜むドラゴンを狩ることにしやせんか」


リヒターが貴史に持ちかかるのは、貴史の顔を立てているからであってその計画はリヒターの中では既定事項に近い。


貴史にはそこで異を唱えるほどの知識もなければ、反対するほどの動機もない。あるとすればヤースミーンと約束したララアの行方探しを進めたいと言うことだが、それさえも確たる当てがないのに先を急ぐ理由はならなかった。


「そうだね。リヒターさんがドラゴンハンティングに適していると言うなら反対する理由はないよ」


リヒターは満足そうな笑顔を浮かべると、腹心の部下ホルストに告げた。


「先遣隊をヤヌス村に向かわせて宿営地の見当を付けさせてくれ。それから村から買い上げできる食料がないか調べておくんだ。」


「了解しました」


ホルストは慣れた様子で数人の捕獲チーム員と一緒に馬を駆ってヤヌス村を目指す。


「食料を現地調達とはなかなかいい心がけだが、手持ちの貯蔵食糧はまだふんだんにあるのではないのか」


タリーがリヒターに尋ねた。タリーは新たな食材に出会いたいがためにドラゴンハンティングチームのコック役を申し出て旅にくわったのだ。


「タリーの旦那、この先は人跡未踏の地が続くんでやすよ。このあたりでドラゴンを仕留めて隊商に売りさばきたいのですが、差し当たっては地元の食料を使って貯蔵性のいい携行用の食料を温存したいのです。もう一つには食材は新鮮な方がおいしいでやすからね」


タリーはリヒターの言葉を聞いて相好を崩す。


「その通りだ。その地の食材を使った料理を食べてこそ、旅をした実感が得られるというものだ。漁村となれば久しぶりにシーフードを扱えそうで腕が鳴るな」


「タリーさん、シーフードを食べるのはいいけど、海の魔物の姿作りとか姿焼きはやめてくださいよ」


ヤースミーンはタリーの志向を知っているので、彼が料理をする際に暴走しないように予防線を張るのに余念がなかった。


しばらくすると、ホルストが一人で戻ってきた。


他の者を作業に当たらせて、自分が連絡のために戻ることはよくあることだが、それにしてはホルストは慌てた様子だった。


「大変ですリヒターさんにシマダタカシさん。ヤヌスの村は魔物に襲われて戦いの最中です」


ホルストの報告に、リヒターの表情が曇った。


「なんだって。それでは食料の補充どころではないし、宿営すること自体危険じゃねえか。その魔物というのはいったいどんなやつなんだ」


リヒターの剣幕に、ホルストは魔物の名前を思い出せなくなり、身振りでくねくねとした動きをしていたが、どうにか名前を思い出して告げた。


「クラーケンが出たんですよ。最初に村を襲ったのは、あの沖合にある島くらいのサイズの巨大なクラーケンだったらしいのですが、通りがかった少女が強力な火炎の魔法で撃退したらしいのです。


「それ、ララアじゃないの?その少女がスライムを連れていたか聞かなかった?」


ホルストは肩をすくめた。


「今行ったばかりでそこまで詳しく話を聞いていませんよ。しかし、その少女が立ち去った後、今度は人くらいの大きさのクラーケンが大量に浜から上がってきて村人は壮絶な戦いをする羽目になったようです」


人間並みの大きさの海の化け物を相手に戦いを繰り広げると情景は、貴史の想像力の限界を超えていた。


「ホルストさんそのクラーケンってどんな形をしているのですか」


貴史が尋ねると、ホルストは皆の前で地面に絵をかいて説明し始めた。


「そいつらは体の中に骨がない上に足が十本もあるんです。その足にはたくさんの吸盤が生えていて、それで吸い付いて獲物をつかまえるのです」


貴史はどうにかその姿を頭の中に描くことが出来た。


「タリーさんそれってイカに似た魔物なんですかね」


「たぶんそうだな。私の世界ではクラーケンと言えばイカやタコのような外見で、それこそ小さな島ぐらいの大きさをした恐ろしい魔物として描かれていた」


タリーの説明に、貴史は気持ちが萎えるのを感じる。


貴史はタコのような軟体動物が苦手だったのだ。


「みんな、その化け物の群れとやらを返り討ちにして、今夜は特大のイカリングフライを味わおう」


タリーが気勢を上げると、キャラバンの隊員たちはあろうことか盛り上がっている。みんなありきたりな貯蔵食糧を食べ飽きていたのだ。

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