第7話 高慢な村娘あらわる

 村人たちに捕らえられたわたしは、なんとか誤解を解くことに成功していた。


 そしていまは農作業にいそしんでいる。

 着替えもゲットしてようやく痴女スタイルを卒業。

 見事わたしは、村人へと進化していた。


 ……ごめんなさい。

 自分に嘘つきました。

 村人というよりは奴隷に近いです……。




 彼らに捕まったわたしは、王国(?)に突き出されそうになった。

 なんでも村から半日ほど歩いたところに、その王国とやらに属する城塞都市があるのだそうだ。


 そこに突き出されたら最後、魔女は殺されてしまうだろう。

 彼らはそう言ってわたしを脅かしてきた。


『そ、そんなのあんまりだ……!』


 間違いで殺されては堪らない。

 わたしは必死で彼らに訴えた。


『ちょ、ちょっと待ってください! わたしは魔女なんかじゃないですってば! 話を聞いてください!』


 彼らも最初は取り合ってくれなかった。

 けれども、何度も何度も繰り返し訴えているうちに、わたしの話に耳を傾けてくれるようになった。


『魔女じゃない……わたしは魔女なんかじゃないんですよぉ……。うぅぅ……信じてくださいよぉ……。あぁんまぁりだぁぁぁ……』

『……なぁ村長。こんなのが魔国の魔女なのか?』

『……う、うむ……』


 実際のところは、まぁこんな感じである。




 一応ながら魔女疑惑が晴れたとはいえ、わたしは彼らにとって相当怪しく見えたようだ。

 監視役がおかれることになった。


 いまはその子の指導の下で、わたしは過酷な農作業に従事させられている。


「ほら、あんた! 休んでないできりきり働く!」


 言葉の鞭でわたしを急かすこの子は、コロナ。

 村長の娘である。

 歳は見た感じわたしと同じか、少し上くらい。


 でも村人たちは西欧風の顔立ちだし、地球で西欧人が少し老けて見えるのと同じなら、コロナはわたしより年下なのかもしれない。


「手を止めないの! こっちの刈り入れが済んでないわよ!」

「ひぇぇ……。ちょっと休ませてよぉ」

「さっき休んだばかりでしょ! さぁさぁ、働く働く!」


 とは言っても、さっきから働いているのはわたしだけだ。

 この娘はなんにもしていない。

 きっと体良く自分の仕事を、わたしに押し付けているんだろう。


(おのれ……。わたしは奴隷じゃないんだぞ!)


 思っても口に出す勇気はない。

 わたしは心のなかで毒づいた。




 日が傾いてきた。

 ようやく今日の農作業は終了だ。


「はぁ……。疲れたー」


 ぺたりと座り込む。

 これは肉体的な疲れというよりも、どちらかといえば精神的な疲れだ。


 こき使われたはずなのに、なぜか体はあまり疲れていない。

 もしや竜になったことが、なにか関係しているのだろうか。


「情けないわねぇ、あんた」


 コロナがため息を吐いた。

 というか、なんだその態度は。

 自分は仕事を全部わたしに押し付けて、楽をしていたくせに!


「あんた、そんな見た目じゃ行くあてなんてないでしょ? 村に置いてもらえることに感謝して、がんばって働きなさいよ?」


 そう、それだ。

 その見た目の話が気になっていたのだ。

 彼女に尋ねてみようか。


「見た目って、この髪のことですよね? そんなに珍しいんですか、黒髪?」


 彼女がきょとんとする。


「……そんなことも知らないの? あんた魔国から逃げてきた、逃亡奴隷かなにかなんでしょう? ここは王国と魔国の、ちょうど国境くにざかいあたりの村だし」


 村人たちの間では、わたしはそういう存在と思われてたんだ。

 というか魔国ってなんだろ?

 よくわからないけど、口裏を合わせることにする。


「黒髪黒瞳(くろかみくろめ)なんて、魔女くらいしか聞いたことないわよ。有名じゃない。王国の宿敵、魔国オイネを統べる呪われし『黒の魔女』」


 そんな怖そうなのがいるのか。


「……あんた、ほんとに違うんでしょうね」


 コロナが疑ぐりの目を向けてきた。


「ち、違うわよ! わたしはただの……」

「ただの……なに?」

「ただの……OLです……」

「はぁ? わけわかんないこと言わないでよね」


 彼女は怪訝(けげん)そうに眉をひそめた。

 立ち上がってお尻をはたく。


「まぁ、こんなのが魔女なわけないわよね。……とにかくあんた。魔国に追い返すか、王国に突き出すかされたくなければ、これからもしっかり働くのよ!」


 コロナが立ち去っていく。


 彼女の後ろ姿が見えなくなるまで見送ったあとで、わたしは盛大にため息を吐き出した。

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