第5話 村にお邪魔してみよう

 村にお邪魔してみることにした。


 何日もひとりだったのだ。

 わたしだって人恋しく思う気持ちも湧いてくるし、それ以前にこの異世界について色々知りたいこともある。


 それにあわよくば、美味しい食事なんかにもありつけるかもしれない。

 こっちに来てからというもの、木ノ実と川魚くらいしか食べていないのだ。


(……お肉が食べたいなぁ)


 でも無理無理!

 動物を殺して解体するなんて出来るはずがない。


「……親切な村だといいなぁ。お肉、食べさせてくれるかなぁ?」


 竜化を解いて体をチェックする。

 大丈夫だ。

 どこにもおかしいところはない。


(ぃよし。いくぞ!)


 そろり、そろりと村に近づいていく。

 そこは寂れた村だった。


 事前に空からチェックしたから知っている。

 この村にある家屋は30軒ほど。

 百人ほどが主に農作業をして暮らしていた。

 兎や鶏のような小さな動物で、小規模な牧畜をしている村人もいるみたい。


 村内に足を踏み入れると、ちょうどそこにいた壮年の男性と目があった。

 彼は信じられないものでも見たかのように、わたしを見つめている。


「あ、あのぉ……。こんにちは~……」


 村人がぱちぱちと目をしばたたかせた。


「ちょっと、いいですかぁ~……?」

「――ひぅぃ!?」


 引きつったような声が聞こえた。

 目の前の、彼の喉から漏れ出した声だ。


「ひ、ひぃぃ!? 魔女だ! 魔女だあああ!!」


 村人は一目散に走り去っていった。




 魔女って一体なんの話だろう?

 取り残されたわたしは、ひとり首を捻る。


「……なにかおかしかったかな?」


 いまのわたしは全裸にトレンチコート姿である。

 完全痴女仕様だ。

 おかしいか、おかしくないかを語るなら、全力でおかしい。

 メーターを振り切っていると言えよう。


 とはいえコートの前を開いたりはしていない。

 だから例えわたしが痴女スタイルだとしても、まだ本物の痴女ではないのである。


(解せぬ……)


 なんにも見せていないのにこの扱い。

 それに魔女とかいうよくわからないセリフ。

 これは一旦出直したほうがいいかもしれない。


「お、お前が魔女だな……!?」


 撤退しようと考えたところで、声が掛けられた。

 先ほどの男性が、村人たちを率いて戻ってきたのだ。

 集団からひとりの男性が前に出てきた。


「く、黒の魔女め! い、一体村になんの用だ!」


 周りから村長と呼ばれた50歳ほどのその男性は、強気な言葉とは裏腹に及び腰になっている。

 見れば彼も含めて、村人たちは斧やくわで武装しながらも震えていた。


「あ、あの……。魔女ってなんのことですか!?」

「と、とぼけるな!」

「本当に知らないんです! なんのことなの!?」

「白々しい! そ、その黒髪と黒瞳くろめが動かぬ証拠だ! 魔国の魔女以外に、そのように不気味ななりをした女がおるか!」


 愕然としてしまう。

 黒髪黒瞳が不気味?

 じゃあ日本人はみんな不気味ってことになるじゃない!?


 いや待てよ?

 場所が変われば文化も変わる。

 ましてやここは異世界だ。

 こちらではこの髪と瞳は、気味が悪くて当然なのだろうか?


(あ……!? しまった……!)


 考えごとをしていると、周囲がすっかり村人たちに囲まれてしまっていた。

 どいつもこいつも目を血走らせて武器を構えている。

 強行突破すれば刃傷沙汰(にんじょうざた)になるかもしれない。


(ど、どうしよう!? 空から逃げる?)


 そんな考えが一瞬浮かんだ。

 でもすぐに却下する。

 魔女だなんだと因縁をつけられている最中に、竜翼をみせるのは悪手だろう。

 ますます誤解が深まりかねない。


「よ、よぅし……。抵抗はしないみたいだな……」


 村長がほっとしたように息を吐いた。


「誰か、この魔女を縛り上げろ!」


 こうしてわたしは、村人たちに捕縛された。

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