第3話

 僕たちが通っている北高校は周りが住宅地で、徒歩で通っている人も多くいる。 

 学校を出て左、そのまままっすぐ歩き、コンビニのある角を右に曲がると後は道なりに。地図を見ながら進んでいくと、水色の一軒家についた。屋根は斜めで二階建て、家の前には一台の黒い車が停めてあった。

 表札を見ると、山崎と彫ってあったのでここで合っているだろう。

 一呼吸置いてインターフォンを押すと、すぐに女の人の声が聞こえた。

「はーい」

「山崎佳奈さんのクラスメイトの梶です。プリント届けに来ました」

ドアが開くと、薄い桃色のエプロンをつけた女性が立っていた。

「佳奈の母です。わざわざありがとう」

「いえいえ」

 自然に笑顔になった僕はバックから取り出したプリントを渡そうとした。すると彼女は

「わざわざ来てもらったんだし、お茶でも飲んでいきません?」

 と言ってくれた。しかし山崎佳奈とは話したこともないので

「そんな、申し訳ないです」

 と、一度は断ったのだが、その後の彼女の説得の圧の強さに負けて、少しの間だけお邪魔することになった。

「お邪魔します」

 出されたスリッパに履き替え、キョロキョロ周りを見ながら彼女の後をついて行った。右手に持っているプリントが、緊張の手汗で湿っていくのがわかる。

 リビングの茶色のダイニングテーブルにプリントを置き、何をしていいかそわそわしていた。

「そこの椅子に座って。今お茶入れるからね」

 椅子に座りテレビの方を見ると、着物を着た女の子写真が飾ってあった。おそらく七五三の時の写真だろう。山崎佳奈の小さい頃かもしれない。

「お待たせしました」

 お母さんは2人分のお茶を置くと、僕の向かいの椅子に座った。

「梶くんだっけ、佳奈とは話したことあるの?」

「話したことはないんですけど、共通の友人がいるので…今日もその友人に頼まれてこれを」

 プリントをお母さんに渡した。

「ありがとう、…佳奈の目のこと…どれくらい知ってるの?」

「去年の冬くらいに、病気で失明してしまったと言うのは聞きました。詳しくはわからないです」

 紗希や周りの人から聞いた情報はこれくらいだ。噂では色々聞いたけど、変なことを言って雰囲気を悪くするわけにもいかない。

「そうね…少しだけ話を聞いてもらってもいいかしら。あの子のことを知って欲しくて…」

 今日は特に用事もないし、それに少し興味があるので聞いてみたいと思った。

「是非。自分で良ければ」

 お母さんはお茶を一口飲み、深く息を吐いてから話を始めた。

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