『過去を覚えてますか』と彼女があなたに尋ねたら、あなたは『はい』と答えますか?

仁壱九

再会

第1話 自分という存在について

『問1-友達がいない、または1~2人程度だ』

答えはYESだ。友達とはフィクションであり、実在の人物や団体などとは

関係ありませんとテレビでもよく注意書きがされている。


『問5-昼飯は自分の席でぼっち飯、または便所飯である』

答えはNOだ。中学時代は強制的に周りの6人と席をつけあわせて食べていたので、

ぼっち飯ではない。まぁ常に俺の席の間には、若干の隙間が設けられていたわけだが、空間把握能力に乏しいクラスメイトを攻めてしまうのはかわいそうってもんだ。


ちなみに、高校1年生となった今は、毎日学食を利用しているのだが、前後左右きっちりと1席分空けながら、ジグザグに席が埋めっていく光景を見るに、ぼっちの空間把握能力の高さがうかがい知れる。


豆知識だが、俺はこの現象を『ぼっちの鴨川』と命名している――大学で卒論を書く際は、本気で検証のテーマにしたいと思っていたりする。


『問10-クラスメイトから名前をよく間違えられる』

この答えもNOだ。だいたいこのクラスで俺の名前、高桐洋平たかぎりようへいを呼ぶのは、出席の点呼をとる担任の先生ただ一人だ。


つまり、クラスメイトから名前を呼ばれるまでは、『正確に名前を呼ばれる俺』と

『名前を間違えられる俺』が同時に存在するのだ……Q.E.D。


最終問題の解答を終え、診断終了というボタンをタッチすると、

俺の結果がスマホ画面に映し出された。

『陰キャぼっち率50%』――これが俺の総評らしい。


ちょうどこのタイミングで、

『ドキドキハラハラ☆陰キャぼっち検診』はいかがでしたか?

アプリを評価、レビューしてください、というポップアップが表示されたので、

今の自分の気持ちを素直に書き綴ることとした。


『中学3年間のぼっちなめんなよ』

評価は星1で送信ボタンを押した。



「ホームルーム始めるぞ~席につけ~」

そう言いながら、担任の男子教諭である丸山が気だるげに教室に入ってきたのが

分かり、俺はスマホをしまい、両耳のイヤフォンを外した。

クラスメイトの笑い声が次第に途絶えていき、俺が好む静けさがようやく教室を支配してくれた。朝からホント元気だよな、こいつら。


「じゃあ、いんちょ、よろしく~」

なおも気だるさマックスハートな感じで、丸山がクラス委員長に号令を促すと、

いつもの起立・礼・着席の合図のもと、朝の儀式が終わる。

続けて丸山はクラス名簿を広げて出席の点呼を取り始めた。

出席番号順に苗字が読み上げられ、ほどなくして俺の場が回ってきた。

「高桐~」

「はい」


本日の学園生活に必要な会話が終了したので、いつも通りクラスの窓から

空を見上げた。

高校に入学して約1か月が経った5月の空は雲一つなく、一面に青が広がっていた。

ふと校舎前に植えられた木に目をやると、枝に2羽の鳥がとまっている

のに気づいた。毛づくろいでもしているのだろうか、交互に互いの体を

つつき合う姿を目にした俺は、心の中でこう叫ばずにはいられなかった。

「リア獣爆発しろ」









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