17


 下田をぶち殺した後の数日間は、金を稼ぐ事に時間を費やしていた。見た目を誤魔化して成人になりすまして競馬やカジノに入り浸り、チートを使ってあっという間に数百万稼いだ。

 競馬では何事もなかったが、カジノの場合そうはいかなかった。今回利用したカジノ施設の運営先が裏社会の連中だったということで、荒稼ぎした俺を不審に思った連中が俺にちょっかいをかけてきた。


 「おい若いの。随分当たりを掴んだようやんけ。あまりにも出来過ぎてるんとちゃうか?ちょっと調べさせてもらうで」

 

 厳つい黒服男が二人挟むように立ち塞いで事務所へ連れて行こうとする。暇つぶしに少し付き合うことにした。


 「持ち物は財布と合鍵とハンカチ...だけか。財布の中は紙幣と硬貨、あとポイントカードが数枚......特に変な物はねーな」

 「そやろ。嫌やな、変にいちゃもんなんかつけやがって...」


 イカサマを疑った男に嫌味たらしく文句を言って煽る。それに対して男は顔をひくつかせながらも疑ったことに謝罪をして出口へ案内してもらった。

 あの顔は納得していないって感じやな。このまま済ます気はないやろうな。それにこの組織は...。



 未成年だったこの頃の俺はまだ自分の口座・通帳を持ってなかったので、また見た目を誤魔化して銀行で口座を開いて通帳もつくった。さっき儲けた金を8割預金して(だいたい500万円)、残りの金で欲しい物全部買った。

 当時のいちばん最新のゲーム機は、据え置き系がWiiやPS3とかで、携帯系のやつががまだニンテンドーDSⅰしかなかった。けど定価が未来から来た俺にとっては安く消費税も5%だったからどれも安価で買えた。あと一年待てばDSが3Ⅾ化されるから楽しみやな。数十年遡ったせいで文化がだいぶ遅れてる感があるがこれはこれでまた楽しめるから良い。

 当時はPSPとか遊んだことなかったからそれも買ってみるか。

 パソコンは...型とかはよく分からんけど、超薄いやつのはまだ出てねーみたいだ。とりあえずノートとデスク両方買った。


 あとは漫画とかラノベだが...うーんこれらはいいかな?とっくに知ってる内容しか無くて新鮮味がねーな...時間遡行の弊害点の一つやな。仕方ねー。

 買い物を済ませて家に帰る。昼間だということもあって誰もいない。ゲームやパソコンの初期設定をアバターにやらせている間、俺はベランダからこっそり顔を覗かせて外を見る。下には案の定、不自然に停車している黒い車があった。


 あれはさっきのカジノの奴らだ。こいつらは最初から俺をつけていた。気付いてはいたがあえて何もせずこのまま自宅までつけさせてやった。その方が面白いからな。せっかく来たから少し遊んでやろうと思ってるし。しばらく経つと車は去って行った。住所を特定するのが目的だったらしい。なら次絡んでくるなら明日以降やな。


 夜になると母も姉も帰って来た。「ただいま」を言うことなく二人とも自室へ入っていく。母は部屋着に着替えてすぐにリビングへ行って夕飯を作り始める。30分後食卓に三人分の御膳が並べられて同時に姉がリビングに来て食事を始める。


 「......」

 「......」

 

 以前なら二人で会話をしていた時間が、今では誰一人として喋らなくなった。俺が喋らなければこの家に人の声がすることはもう無いのだ。

 食卓に座ることなく俺の分も並べられてる料理に目をくれることもなく、外で買った飯を自分の部屋で食べて済ませる。

 

 (ていうか、今日も作ってやがるな……。何やねんあれは)


あのクソ母はいつも勝手に俺の分も作ってやがる。「作るな」と言ってみたが効果は無く、必ず三人分…俺の分も作るのだ。日常ルーティンだけしていろって組み込ませたせいだと思って、ほったらかしにしてるけど、何か鬱陶しくなってきたな。


 「せやから要らん言うてるやろが、こんなもん」


 俺の分の料理を床にぶちまけてやった。すると今までじっと座ったままでいたクソ母が(姉は自室へ戻った)、立ち上がって、こっちをじっと見つめてきた。



 「......何やねん」

 「.........」



 俺が問いかけても何も答えず無言でこっちを見つめるだけだった。しばらくして床に散らばった料理を片付けはじめた。

 そんな母に向かって俺は「気持ち悪っ」と吐き捨てて、自分の部屋へ戻る。


 確かに俺は、家族二人の心と感情を全部抜き取ってただの抜け殻人間に変えたはずやけど...。まあ、もうどうでもいいか。こいつらに何かしらのバグが発生していようが、俺が困ることはない。


 というか近いうち、俺は新しい家建てて前みたいに一人暮らしをするつもりだ。自分以外の人間が住んでることは我慢ならんし、さっさとあの二人の顔を見なくて済むようにしたい。


 翌日も学校へ行かずに...というか跡形も無く破壊したから行くあてがない。それに高校へ進学する気もないし。


 (進学せずとも復讐はできるし...くくく)


 しかしあの不自然に出来た大穴をいつまでも放置するのもなぁ......あ、そうや。あそこを俺の新居にしよう!

 一戸建ての家建てて庭や運動場なども造って豪邸に改造する...ええやんけ! 



 色々“錬成” “創造” 構想......実行!



 頭に思い描いた構造の家を創造して、次に中身も思い描いてその通りに創造して創り上げていく。二回分の人生で得た知識をフルに使い、当時にはあった物を創っていく。

 まるで神にでもなった気分や。ゼロから次々と創っていく作業は楽しいもんやな。

 口座から金をおろして新しい家具を買って回り室内に配置する。空いた土地には大きめの庭と運動場、さらには映画館も造ってみた。本場のスクリーンよりクオリティは低めだが、大画面で観るだけでも迫力あって良いはずだ。

 あとは適当に倉庫とかいっぱい造って...はい俺の為の豪邸が完成!!


 「なんか二度目の人生よりも良いのが出来たな...俺の理想が詰まった家や。っしゃあ!良いことしたぁ~」



 「盾浦東中学校は廃校してここには個人宅が新たに建った」という認識をとりあえず市内に広めて洗脳した。これで完全にあの中学校は完全にこの世から消え去ったな...消えてええわあんなクソ学校。


 新居が完成した頃にはもう夜になっていた。魔力をけっこう使ったから疲れてもいる。今日はあの家で過ごして明日からここで生活を始めよう。


 家に帰ったところで違和感に気付く。誰もいない...。

 時間は夜の8時。いつもならこの時間にはだいたい二人は帰って来ているはず。ましてや今のあいつらはただの抜け殻。決まったことしかしないはず。


 考えられるとすれば誰かに強制されて帰りを妨げられている...か。友達の付き合いとか飲み会とかそんなところか。今のあいつらにそんなものについて行くやろうか?

 そう考えていると電話が鳴って受話器を取る。相手は聞き覚えのある声だった。



 『杉山友聖やな?お前の家族二人は預からせてもらったで?二人に会いたければちょっとこっちの事務所まで来てもらおっか。聞きたいことがあるからよォ』


 昨日のカジノの...いやカジノを運営しているヤクザってところか。それも...


 「ああやっぱり、前原優の親戚の...」

 『ああ?優を知ってんなら話は早いわ。ほな昨日のカジノのとこへ一人で来いやそこでたっぷり話してもらうからな...!』


 最後に怒りがこもった声でそう言うと一方的に切って通話は終了した。

 やっぱりな、検索魔術で分かっていたことやけど、あいつらは前原が言っていたヤクザ連中だ。たぶん連絡がつかなくなった前原を気にかけてのことやろうな。


 じゃあ何で俺に絡んできたのか、それも前原の事前の入れ知恵か何かやろ。あいつは本当に俺のことをテキトーに言って俺を潰そうとしてたんやろうな。前々から相談を持ち掛けられていた叔父は、突然連絡つかなくなった甥が、もしかすると俺の仕業じゃないかって嗅ぎつけたんやろうな。知らんけど。


 でだ......母と姉を人質にして俺を捕らえようとしてるわけか今は。二人の不在の理由は分かった。あいつらが前原と関わりがあるってことも分かった...。



 「よし。疑問も晴れたことやし、遊ぶか」



 だから何や?もうあの二人がどうなろうが関係無いし。つーか用があるならお前らから来いって話やし。人質とか回りくどいことしやがって。



 その夜俺は、ヤクザの呼び出しを完全に無視したのだった――。




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