7-2


 無関係な生徒どもは皆、俺が指定した連中に「お前らのせいで……!」って感じの目で睨んでいる。

 そうや、俺はコレがやりたかったんや。理不尽な目に遭ったからこうするんやってどれだけ叫ぼうが、俺に無関心で無関係な奴らは心から俺に共感することはないやろう。

 けど人間ってのは所詮、数が多い方に傾く生き物や。それも自分の利益が多い方にな。だから俺は有象無象どもをに敵をつくらせた。俺が憎い憎いと思っているあいつらを敵にさせた!


 あいつらのせいで自分らは巻き込まれた、殺されそうになってる。俺は言葉に魔力を込めて、有象無象にそう思わせることに成功した。どう考えても俺の暴走のせい、俺が悪いとか思うのがまぁ普通だ。

 けどその普通を指摘したら、自分らは殺される。


 そこで理不尽の権化と化した俺…圧倒的力を持ってるこの俺がしきりにあいつらを非難するとどうなるか?みんなは諸悪の根源をあいつらにしようって考えに傾くことを選ぶようになる。

 何の力も無いただの人間のあいつらならいくら非難してもこちらが殺されることはないからな。


 いわばこれは誘導された「責任転嫁」。俺は一部を除く全校生徒どもに、ヘイトをあいつらに向けさせた!

 数百人もの負の視線を受けた連中は俺の時とは違う色の怯えを見せ始めている。この状況をつくったのは自分らのせいだという流れが形成されていくのを感じて、恐怖している。



 「そ、んな...滅茶苦茶な...!あいつは、人を殺したキチ野郎なんやぞ?なのに俺らが悪いやと...!?」


 中林が青い顔をして自身に向けられてる視線を呆然と見て呟く。


 「どうや?お前らと、クソ教師ども。これがってやつや。数の暴力って理不尽みたいなもんやな。たとえ悪いことでも皆がええよって言ってしまえばそれは許されてしまうんやから......俺が受けてきた虐めと同じようになァ」

「「「「「っ......!」」」」」


 怒りと非難、さらには侮蔑の視線に、11人全員が戦慄する。数の暴力=理不尽の恐ろしさが少しは理解したみたいやな。


 「ざ、戯言を...!結局は君の幼稚な暴走に過ぎない!全員この生徒の戯言に悪影響され過ぎだっ!!正気に戻れ!!ここで断罪されるべき悪人は、我々でも彼らでもない、人を殺して彼らをあんな風にしたこの生徒ただ一人だっ!!」

 

 校長がしゃしゃり出てきて、それらしい反論を叫んで全校生徒に訴えかける。しばらくして連中に向けていた非難の視線の数が減り出した。校長の反論が正しいと思ってるようだ。

 まぁ進行形で罪を犯してるのは俺やから、そうなるわな。正論としてはあいつらに利がある。

 当然だ。この時点で俺は大罪人と化しているからな...。


 が、それがどうした?


 これは俺の復讐だ。正しいとか間違ってるとか悪人とか、そんなもの知ったこっちゃねー。

 ただ俺が満たされれば、幸せになれればそれで良い。いくら流れを変えられようが、最後にはコイツも無様に死ぬことになるんやから...!


 じゃあ、ここで一石投入するか!



 『ところで俺はお前らをも殺すって言ってたけどさ......気が変わったわ』



 ざわりと騒然する生徒どもを見て笑いながら続ける。



 『お前ら全員が、このクズ11人とクソ無能教師ども、その後に俺のクラス連中への処刑を望んでくれれば、さらに俺がこいつらに復讐してる様を盛り上がってくれるなら。

 俺の虐めに無関係だった奴ら、知らなかった奴らは殺さずにしといたるわ!!

 死が免除される条件は、この場で無関係の生徒全員が俺が指定した連中の死を望む声を上げること。このあと連中が理不尽に拷問されてるところを嗤ってやること。今言ったこと全てその通りに実行するのなら、無関係のお前らだけは殺さんと約束するでぇ!』



 体育館が一段とやかましくなる。殺されないということを聞いた希望と、その代わりとして人でなしな行為をすることへの躊躇で、だいぶ揺らいでいる。


 『俺はどっちでもええけど、ここで俺の案に乗らんかったら後で全員連帯責任で殺されるだけやで?確実に助かる方法があるなら、そっち選んだ方がええと思うけどなァ?

 あ、もう気付いてると思うけど、今この学校だいぶ空の上にあるから電波は圏外や。当然電話は繋がらへんから助けは来ねーから(実際は結界で遮断してるだけ)。

 じゃあ、1分待ったるから早よ決めろ』



 パンと手を叩いて声を出して1分数え始める。これまで以上に騒ぎが大きくなり困惑と怒号、悲鳴が飛び交っている。まぁ大半がクズ11人とクソ無能教師らのものやけど。別室で五組の連中も何か喚いている。


 そして1分数え終わったところで再び全員の口を閉ざして、話を進める。


 『で......答えは?』


 口を開かせる。一拍おいて―――



 「馬鹿な考えはや―――


 《殺せぇ!!!そいつらが死んで解放されるんなら殺してくれェ!!!》

 


 校長の制止の言葉を聞かずに、生徒全員があいつらの処刑を望んだ!本を見ると、全員が本当にそう叫んでいると出ていた。マジで満場一致の処刑願望が決まった!


 「あ~~~~~っははははははははははははは!!皆がお前ら全員の死を望んでるわっ!!スゲー、数百人全員がそう言ってるとか!まぁ何にせよ、お前らの味方は消えたな...?」


 振り返ると連中全員が、顔を引きつらせていた。五組も同様の反応や。絶望していると言って良い。何せ大勢の人間から自分らの死を望まれてるんやから、そうなるわ!



 「「「「「殺せ!殺せ!!殺せ!!!」」」」」



 やがて大音量の殺せコールが形成された。場は完全に出来上がった。こいつらはこれ以上ない地獄を体験して殺され、他の奴らは無事解放―――





 (―――!!!嘘に決まっとるやろボケ!

 俺はこんな世界どうなろうがどうでもええ!どうでもいい人間らの約束なんかもどうでもええわアホが!!

 とりま体育館内にいる復讐対象どもをぶち殺した後で残り全ても殺しまーす!!)



 内心でこれ以上ない下衆発言をして、良しと叫ぶ。



 「ではこれより、お楽しみの時間といきましょうか! 

 お前らクズどもには、地獄をたっぷり見せたるからな...!!」



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