39


 「この魔術の名前は……そうだなぁ。

 “神による選別” とかかな。これだと厨二感が出てるか」



 自嘲しながら全てを教えてくれる魔術本を使って、日本が今どうなっているのか、様子を見てみる。


 まずは…政治家。日本在住の政治家の大半が消えていた。日本の政治家の大半が高給取りの無能どもって聞いたことあったけど、本当だったようだ。なら消えてしまっても全然困らないな!俺の生活を豊かにするのに全く貢献していない愚物どもなんか要らない。死んでオーケー。


 次に……警察も全滅しているな。あんな偽善者が集う無能組織も、俺の役に立つわけがない。何が国民の安全と平和を守るだよ、笑わせんな。

 守れてなかっただろうが、俺の安全と平和をよぉ。


 その次は…学校関連。

 どの学校にも一定数存在する虐めグループのクソガキども。そんなドが付くクズどもをよいしょと持ち上げて助囃し立てている、長い物に巻かれてるだけの質悪いガキども。さらには虐めを見て見ぬフリをして助けようとしない、クソ傍観者ども。

 そして何より、虐めの事実をもみ消して、被害者たちを冷酷に切り捨てる、腐りきった教育者ども。

 全て塵となって消え失せたようだ

 どの学校も、虐めに遭っている被害者たちを除くほとんどの生徒・教育者どもが消えて無くなったようだ。ははは、一気に少子化を進めてしまったな。


 最後にその他。今まで何度も直接殺してきたヤニカスどもや交通ルールとマナーの違反者ども。

 さらに今回は、今挙げた連中になり得る予備軍も、この世から消し去ってやった!本の力で将来俺の前に現れるとされてるヤニカス・違反者予備軍を炙り出して、同じように消してやった。

 そして喫煙や車以外の要素で、将来俺に不快感を与えるであろう人間をも殺してくれていた。

 言うなればこれは予防接種のようなもの。将来この身を脅かす可能性があるウイルスに蝕まれない為の予防と同じことをしたまでだ。

 どんな小さな火種も、早いうちに消しておかないとな。


 ちなみに、俺の母と姉も、今のレーザーの犠牲となっていた。

 家族を殺したことに、何の感情も湧いてないこない。あいつら二人も死んでほしいと、生前何度も思っていたからな。本当に死んだと知っても「ふーん、そう」としか言葉が出てこない。


 反対に、「神による選別」を免れたのは、どれだけいて、どういう奴らが生存を許されたのか。

 「神による選別」を免れた人間は、まず……食い物を生産・管理している連中、水と電気とガスと薬などを管理している連中など。

 要は、生活必需品の生産と管理、生活基盤を管理して制御…といった、人間の基本的で一般的な生活の維持に欠かせない仕事をしている人間を、第一の生存対象としている。

 そういう仕事をしている人間をたくさん消してしまうと俺の生活がだいぶ不便なことになり得る。ヤニカスとかじゃない限りは、基本生かしてやっている。


 次に挙げるのは……俺の趣味であるアニメ、漫画、小説(ラノベ)、ゲーム制作に関わっている人間である。

 彼らも当然生かさなければならない。特に俺が好きな漫画やゲームといった作品の制作者たちを殺してしまったら、今後の人生が一気につまらなくなってしまう。

 日本の文化…特に二次元は世界トップクラスだ。それを廃れさせることはあってはならない。よって俺にとって害悪になりかねない奴らだけ消して、残りはほとんど生かしてある。


 あとは、アニメや面白い番組を流す媒体...テレビ局に勤めてる人間もある程度は生かしてある。食品、薬品、完成した書籍やゲームなどをも全国各地へ届ける運輸する人間もある程度は必要だ。生かして大丈夫な奴だけ生かしておいてやろう。


 ああそうだ、まだ一つあった。それは“エロ”だ。

 エロも人生には欠かせない要素だ。俺はもちろん、人間誰しにも活は不可欠だ。それを糧に生きている奴だっているくらいだし。

 というわけで外見が俺好みで、さらに性格などの中身も無害できれいな女だけ、職業問わず生かしておこう。



 それにしてもスゲーな。俺の今後の人生において不必要な人間をどれだけ消しておくべきとか、欠かせない人間をどれだけ生かしておくべきとか全て、この魔本に記載されてやがる…。有能過ぎて怖いくらいだ。


 

 「……!おお、凄いことになってるな!」


 魔術を行使してからまあまあ時間が経った。気が付けば1億数千万人はいた日本の今の人口がなんと、3割も減っていた。3000万人以上死んだのかー、凄いな。

 ドローンカメラを大量に飛ばしてやって、各地の様子を見てみる。

 悲鳴、怒号、絶望、怯え、パニックなど負の感情をまき散らす者もいれば...


 「ははは...僕を虐めてたから殺されたんだよ、ざまーみろ!あはははははは!誰だか知らないけどありがとうっ!!」

 「うはははははっ!やったぜ!!俺の大切な同僚を過労死させたクソ上司が死んだ!人を道具のように扱って、命を粗末にしたことに対する当然の報いだっ!!」

 「アスリートである私にとってタバコの煙は本当に迷惑で害だったのよね。清々したわ!」

 

 などといった、かつての俺と同じような人間の歓喜の声も聞こえる。ただそういった人間は比較的少なく、混乱、恐怖、絶望といった感情の方がほとんどだった。


 ふざけたことに、ほとんどの日本人が、今の日本に満足してたようだ。日本だけじゃない、世界中そうかもしれない。俺には微塵も理解できないが。


 何はともあれ、これで“選別”は完了。日本国内限定で俺にとって害にしかなりかねな不要な人間どもは全てこの世から消してやった。

 この日本だけ、俺を不快にさせる人間はもう一人として存在していない!!



 「理想の日本が、見えてきた...!」



 残すことは、この国の制度の改造や...。



 『消費税を撤廃することを決定。明日から消費税は無くなります』

 『自家用車とバイクの撤廃により、電車とバスの運転数を増加させることを決定』

 『学校や職場で起こる虐めやパワハラに大して刑罰を科すことに......即死罪と決定』

 『残業を1秒でも行った場合、それを強制した者は懲戒免職もしくは死罪が科されることを決定』

 『警察組織と自衛隊を解体。新たな組織を代わりに結成する方針だ』



 などと、色々好き勝手に書き換えてやった。宣言したのは俺の傀儡と化した感情の無い大臣どもだ。俺が考える、国民に優しい法を新たにつくってやったぜ。


 さて……「神による選別」を行使したことで、日本の人口がもの凄く減ってしまったな。これでは人手不足で国が機能しなくなってしまう。

 ではどうするか?



 「“錬成”.....アバター作成」



 無人の広い荒野に移動して、そこで俺は錬成魔術を行使した。

 すると地面から幾万ものアバター人間が這い出てきた。こいつらも俺に忠実な人形、しかも一般の日本人より頑丈で強い。

 食い物も水も摂らなくても消えない、動力源は定期的な魔力の注入で良い。大体月に1回でオーケーだったはず。


 「お前らの仕事は単純だ。俺がこの世から消してしまった人間どもがやっていた仕事をするんだ。

 人手が不足してしまっている地域に行って、死んだ連中に代わってお前らが働いて、国を支えるんだ。

 お前らが俺が改造したこの日本を機能させていけ。いいな」


 命令をとばすと同時にアバターどもは各地へ移動した。これなら労働不足に悩むこともない。人がいくら死のうが、俺の魔術でいくらでも補填できる。これで日本が破綻しないで済むはずだ。



 「理想の日本が、完成したぞ...!」



 感激して少し泣いてしまった。これからは幸せで楽しい人生が待っている。復讐を終え、粛清と改造も終えた後は、楽しく生きるだけだ!!





 あれから数年――。



 「ん......ぁはあ♪楽しかった...気持ち良かった♪また私と遊んで下さいね、友聖君♡」

 「おーう。今日も良かったで。またよろしく」



 今日も行きつけの風俗で色々発散してから帰宅。


 新作ゲームをプレイ。


 美味い物を食う。


 毎日娯楽尽くしの最高の日々を過ごしている。



 「神の選別」を行使した日、アバターたちが死んだ奴らになり代わって働くようになった日から数日間の間。

 やっぱりというか、選別を免れた人間のほとんどはしばらく働こうとはしなかった。

 大量殺戮を行った俺に対する不満や憎悪を露わにしていて、中には暴動を企ててる奴らもいた。


 しかし本当に暴動に移すことは、誰もしなかった。誰もが俺を憎むだけに止めていて、徒党を組んで俺を抹殺しようといった不穏な事態は全く怒らなかった。

 だから俺もこれ以上は誰も消すことはしなかったが、俺が残した爪痕は思った以上に生き残りの奴らを傷つけてしまっていたようだ。このままでは国が機能しなくなる可能性が出てくる。


 だから、国民全てに“催眠”をかけることにした。アバターたちを媒体にして催眠魔術を各地の人間たちに放って、こう念じた。


 「俺が今まで行ってきた殺戮と粛清に関すること全て忘却する 今の日本に何の違和感も不満も抱かなくなる」 


 しばらくして、全ての人間が以前と同じ生活に戻っていった。

 はいこれで今度こそ全てやり終えた。

 俺は幸せやし、他の国民らも嫌な気持ちにならない、丸く治まったね!


 という感じで国を運営して楽しい生活を送っている。海外諸国の目も何やかんやで誤魔化して平常通となっている。

 むしろ先進国の中で経済レベルがアメリカや中国に比肩するくらいにまで成長して、大躍進している。


 何の害も不快感も無い生活。美味い食い物と娯楽に溢れた家。外に出ても敵はいない、障害も無い。楽しい、楽しくて仕方がない!幸せ過ぎる!!



 楽しい、幸せだ!この気持ちに間違いは無い。嘘じゃない。食い物もアニメもゲームも漫画も小説もその他番組もエロも、全てが充実している。そこには不満は無い。あるわけがない。理想が叶って毎日が最高の一日だ!




 だが......俺はどこまでも欲深い人間だったのだと、ここにきて改めて気付かされた。





 「.........足りない」


 まだ、満出来ていない―――








*次回 第一部最終話


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る