33-1


 家族との仲が悪くなり始めたのは、中学で虐めに遭ってから1~2年経った頃だったか。

 

 中学生になってから本格的に虐められるようになり、学校側の大人どもに訴えても取り付く島もない反応に終わるばかり(たぶんクズ展開特有の、学校の体裁に障るとか何かで虐めの件を揉み消そうって魂胆だったんだろうよ)で。

 残った相談先はやはり家族だというわけで母に相談したのだが......



 「そう言ってホンマは友聖もクラスメイトに乱暴してるんやろ?小学校の時もそうやったよな?クラスメイトの男子何人かに怪我させて、母さんその子らの親に謝りに行ったんやから」

 「あ...あの時はあいつらも俺にけっこう暴力振るってきたやろうが!覚えてるはずや!俺もいくつか傷を負ってて、それで向こうも痛み分けってことで手打ちになったんや。けど今回は俺がほぼ一方的にやられた!見ろよこの傷を!あちこちに打撲痕もあって痣もある!明らかに虐めや!」

 「その割には顔は無事やんか。それにほぼってことは友聖もクラスメイトの子らを傷つけたんとちゃうん?そんなんやからみんなから攻撃されるのよ?」

 「顔に傷が無いのはあいつ等が狡猾に虐めを隠す為だ!それに、俺から傷つけたことなんて一度もねーよ!いつも、いつもあいつ等から攻撃してきてんだよ...!」

 「だったら友聖もやり返そうなんて考えず、暴力に暴力で対抗することを止めるべきやろ?それで学校の先生らにきちんと事情を説明して、そういうこと起きないようにしたらええやんか。

 それよりもさっきから親に対してその口の利き方はアカンよ」

 「―――――」



 話にならなかった。


 というか、冗談だろ?って思ったわ。学校じゃ誰も当てになる奴がいないから親に相談しに来たのに......結果がコレかよ。

 俺の体の傷を見ても全くどうにかしようって気を起こさず、それどころか俺に非があるから攻撃されるだのと非難して、口の利き方を注意して終わりやがった。


 自分の子どもが痛ましい姿をしてることには全く触れようとしないとか、親として終わってんだろ。

 父親と離婚してからずっと母に育てられてきたが、俺はこの母から愛情を受けたことは無かった。ただ惰性で育成してきたってことがよく伝わった。だからあの時の虐めに対してもほぼ無関心だったんだろうよ。


 相談した日をさかいに、俺は家族をも嫌悪するようになった。家族にはもう一人、姉がいたのだか、そいつも俺にとって糞な存在だった。

 虐めのせいで成績がダメになっていく一方で、難関高校に受かってそこで優秀な成績を修めている姉だったが、ムカつくことにあいつ事あるごとに俺を見下してきた。

 直接口に出してくることはしなかったが、いつも侮蔑を込めた目で俺を見やがる。

 母も出来の良い姉を贔屓しがちで、落ちこぼれと化した俺に全く気をかけることはしなかった。


 時が流れ、高校卒業後は地元近くでアルバイトを始めるが、クソッタレな事情で2つとも辞める。そんな俺を見た家族二人は......



 「アルバイト辞めた理由が人間関係って...。上手く付き合えない自分に問題があるからやないの?そんままやと社会のクズになるで。あー、もうなりかけてるんか。大学すら進学できないくらいやもんな」


 俺をひたすら見下して侮蔑するクソ姉。


 「前もバイト辞めた理由が相手に問題あるか何とかでってやったよね?今回もそんな理由で辞めちゃったの?なぁもう少し堪えるって能力を身に付けなアカンよ?ただでさえ大卒でも厳しい世の中やのに、友聖そんなんじゃ生きてられへんよ?」


 なんかそれっぽいこと言ってる割に全くこちらを心配する気配が無いクソ母。



 ああこの時期だったか。俺が家族に当たるようになったのは。

 でも仕方ねーだろ。マジで誰一人として俺の味方になってくれる奴はいなかったんやから。

 悩み相談所?労基?ハッ、あの連中だって結局は赤の他人相手に本気で支えようってなんて思ってねーよ。事実それらに相談しに行ってもこの俺がいる始末なんやから。


 そういうわけで、俺は二人に罵声を浴びせるわ、物を投げるわ、家具を投げるわで、かなり荒れた。で、その結果が......



 「友聖!!お前という奴は、人として最低のことをしてる自覚が無いのか!?お前は身内の恥だっ!!」


 ドガッッ「ぐあ...!」


 俺が荒れるようになってしばらく後、母が助けてほしいと連絡をよこしたことで埼玉から突然割り込んできた俺の叔父にあたる男…平塚大輔ひらつかだいすけは、俺を怒鳴りつけると顔をぶん殴りやがった。


 「お前、最近家族だけじゃなく近所の人にも暴言吐いたりドアを蹴ったりしたそうだな!?その年で家庭内暴力とは何事だ!?」


 「るせーよ...。中学・高校と散々見下されて、味方もしてくれなかったこのクソ家族に対して、今までよく堪えた方だろうが!

 近所の家のドアを蹴ったのは……俺が通る度にクソ犬がぎゃんぎゃん吠えてきたからや!飼い主に注意しても全く改善しやがらないもんやから、分かりやすい形で教えてやったんや!俺がどんだけ迷惑被ってるかを!!」


 マンションの管理人に苦情を言えば済む問題だった。だけど当時の俺はそんな思考が浮かばない程に病み荒んでいた。

 つーかちゃんと躾をしなかったあの飼い主が明らかに悪い!そして俺に対して喧嘩売るようにうるさく吠えてくるあのクソ犬もな!マジで殺してやりたいと思った。


 「口の利き方もなんだそれは!これ以上その腐った性根を直さないつもりならここを出て行ってもらおうか!これ以上家族と近所に危害と迷惑をかけさせるわけにはいかないからな」

 「ちょっと待て!なんでアンタが勝手に決めてんだ!?ふざけんな!無関係の人間がしゃしゃり出んな!!」

 「無関係なことあるか!自分の親...俺にとっては妹の洋子(母の名前)に乱暴するような奴はクズだ!

 それに...このままこの家に居座るっていうのならお前を今すぐに警察に突き出すぞ。家庭内暴力および近所のドアを蹴って傷をつけたことによる器物損壊でお前は確実に前科がつくぞ。

 お前はまだ若い。これからの人生に瑕をつけたくないのならここから出て行け!!」


 「.........クソが。クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソが...!

 分かったわ出て行ったるわ。俺の虐め問題や人間関係の悩みについてまともに向き合ってくれねーようなクソ家族なんかと一緒に暮らしてられるか!

 もう無理だ!我慢の限界だわ!望み通り、出て行ってやらぁ!!」



 母も結局はクズだ。あのクソ叔父がいなければこうやって俺に言いたいこと言えないでいる。面と向かって出て行けだの何だのすら言えないでいる。

 俺はこんな弱くてクズな母のもとで育ってきたのか......こんな奴味方じゃねー。


 だが何よりも腹が立ったのは、俺の事情をロクに知ろうとしないであれこれ詰って非難して悪者扱いして挙句勝手に勘当させたあのクソ叔父だ...!

 俺の虐げられ事情とか家族間の問題とか近所トラブルとか何の関係も無い野郎が、何しゃしゃり出てきて俺を排除してるわけ?

 妹に助け求められたから?せやな、一応道理は少しは通るやろうな。


 けどそんなもの、俺には関係ない話だ!!

 お前もそうか、俺の敵として俺を排除するわけかい。

 ああそうかよちくしょう。この世の中はホンマ、俺に味方してくれる奴はおらんのな?

 家族親戚でさえこれかよ......もうなんかここまでくると笑うしかねーわマジで。


 こんな親から生まれてしまった運命を酷く恨み憎み、呪った日だった...。


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