5ー1

対象 清水博樹



 中学3年生に進級すると、そいつ…清水博樹と同じクラスになってしまった。

 サッカー部だった清水だが、中学1年~2年の間ずっと、俺を直接虐めることはしなかった。とはいっても1年の頃からカースト上位のグループに所属していた清水は、虐め主犯格の連中が俺に暴行をしている様子をただ面白がって見物してはいた。


 そんな最低な傍観者を決め込んでいた二年間だったが、3年生で同じクラスになった途端、奴は俺に直接何かしてくるようになった。それも、俺が嫌がる事をたくさん、だ。




 五十音順の都合上で不運にも席が俺の前という席順になってしまい、始業早々に奴は俺に嫌がらせをしてきた。配られたプリントを渡さない(俺はいちばん後ろ席だったから誰も困らない)、机に落書きしてくる(完全に俺を侮辱した内容だ)は序の口。休み時間でトーン大きめに何故か俺の家族構成を聞いたりとか意味不明な絡みをしてきた。




 中でも苛つかせたのが、俺の顔の傷(虐めでついた)を指差して皆に聞こえるトーンでしつこく聞いてきたことだ。



 「なぁなぁ、目腫れてるやん。なんなんそれ?どうしたわけ?なぁ?唇もめっちゃ腫れてるしw何それ?ダ〇ンタ〇ンの浜〇かよ!しかも制服ボタンあちこち外れてるしさぁw面白―」

 「黙れよ!!いちいちデカい声で聞くことかよ!俺が何でこうなったのか知ってるくせに!!」


 堪え切れなくて怒声を上げるも面白がって俺を嗤うばかり。無視しようがキレようが清水は俺が嫌がってるのを見て笑い物にしやがった。人の傷口を、あいつは面白がって抉ってきたのだ。そんな、最低のクズだった。

 

 中でも...俺が奴を憎んだ最大の原因が、主犯格どもによる虐めを助長させた「あの出来事」だ...。





 「お前......鼻くそついてんぞ?」

 「.........ハァ」

 

 毎度の嫌がらせ絡みだろうことで俺は無視した。




 「いやだから鼻くそ!見えてるって。くははwおいついてるて!」



 あまりにしつこくウザく絡んでくるのでティッシュで鼻をしっかりめにかんで掃除して終わらせた。これならどんなに汚れてようがきれいになったと確信して清水から離れる。だが......



 「いやいやいや!そんなんでも鼻くそ取れてないから!おいこれ使えよ。ペンで、鼻ほじって取れよ!ほじれば取れるからさぁw」

 「知るか。今ので取れてるし。それ以前にそんなにへばりついてる鼻くそだったら感触で分かるし。いい加減にその下らない絡みは止め―」

 「鼻くその感触楽しんでるって!?え、何?杉山はそーいうことして楽しんでるわけ!?うわー引くわーw中学生にもなってそういうことしてるのはどうかと思うで?wほら早くペンでほじって取れよ杉山くーん!w」

 

 デタラメを周りに聞こえるように言いふらして、しきりに俺に鼻をほじらせようとしてくる。しかも授業中にだ(教師には聞こえない声量でだから余計質が悪い)。それを何回か繰り返していくうちに、俺が鼻くそを気持ち悪くいじるとか意味分からないレッテルを貼られてクラスで馬鹿にされるようになった。

 そしてそれを聞きつけた虐め主犯の連中......クラス内では小西陽介がネタにして悪ノリして俺を侮辱してきて、俺がそれに対して制裁したら逆ギレして仲間を呼んで俺を暴行する...。




 その光景を、清水は嗤いながら見ている。そう、あのクソ野郎は連中の虐め行為を助長させた、普通の傍観者よりも最低なことをした罪人だ。毎回俺が傷ついて苦しんでるところを見て楽しむクソ最低のクズだ。

 奴のしたことを通報しても、当の本人は虐めに直接関わっていない、暴行を加えたりはしていないなどとほざいて、しかもそれが通ってお咎め無し。



 はぁ?ふざけるな。清水博樹、お前は罪人だ。周りが忘れようと気にしていなくても、俺自身が受けたこの屈辱は本物で許されないことだ。

 相応の罰を受けさせる...! 



 「――というわけで、清水博樹。お前は今から俺に裁かれる......まぁ正式には俺の恨みを晴らすといった方が良いか。まぁ罪は罪だ。きっちり償ってもらう」

 「い、いきなりやってきて、昔の記憶を流してきて、俺を裁くだの何だのと!意味が分からねーんだよ杉山...友聖!」

 「いやいや、分かれよ。せっかく思い出させてあげたんだ、忘れたとかは無しだぞ?


 お前は俺を侮辱した。虐めを助長させた。俺が虐められていたのを見て嗤ってた。お前が俺に犯した罪はそんなところだ。二度は言わねーぞ」

 「ぐ......!それ以前に本当にお前はあの杉山なのか!?年月からして俺たちはもう40歳を過ぎてるはずだ!それなのになんだその見た目......20代じゃねーかよ。どんな若作りしたら――」

 「そんなことはどうでもいいん、だよっ!」



 ドゴォ!「ぐ、おぁ......がはぁ!」



 話の主導権は俺だっての。ベラベラ喋んな。とりあえず、今の蹴りを以て、こいつへの復讐の開始といこうか。


 それにしても、こいつは俺が死んだことを知らないみたいだな。俺はここ...大阪から離れたところで生活してたから、かつての同級生だろうがそういう報せはこなかったようだな。まぁ別に知らなくて良いけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る