ジュンズ・ブライド

荒井 文法

カタオモイ

 青い空で輝く銀色の雲が、高く、大きく、空に広がっている。

 暑い空気と喧しい蝉音に包まれながら、網戸越しにその光景を眺めていた。

 とっくに見飽きてしまったテレビが笑い声をコソコソ上げている。


 じっとり汗が滲み続け、身体が溶けてしまいそうな気がする。

 体に触れるものすべてが疎ましくて、エアコンの風すらも不快で、電源を消した。

 自分の心も消してしまいたい。


 冷たいフローリングの上に寝転べば、その固さが不快で。

 柔らかいカーペットの上で大の字になれば、投げ出した手足を切り取りたくて。

 膝を抱えて丸まれば、鼓動と息の根を止めたくなって。


 片想いの辛さは知っているつもりだった。

 甘かった。


 「カスミ」


 重い肩を上げて、ピストルのような彼女の名前を顳顬に突き付ける。


 頭の中をすべて吹き飛ばしてくれますように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る