第66話 ようこそ
街でレオンと話をしてから数日後。
レオンはバルド家の屋敷にやってきた。
以前彼がこの屋敷にきたのは、レイチェルお嬢様が体調を崩したときだった。たまたま街でエマを助け、その流れで屋敷に訪れたのだ。
あのときはびくびくと怯えていたけれど、今日は緊張した面持ちを残しながらもしっかりと立っている。
「僕、レイチェル様の言葉が嬉しかったんです」
レオンは静かに口を開いた。
「僕のことを信頼できる人間だって言ってくれたこと、すごく嬉しかった。本来なら、僕みたいな庶民には見向きもしないような立場のあなたがそう言ってくれたことがとても」
嬉しかったんですと繰り返して笑った。
私は生まれたときから貴族社会に身をおいていたし、レイチェルお嬢様のそばにずっと仕えてきた。その私には、庶民のレオンがどんな気持ちでお嬢様と関わっていたのかは分からない。
彼の気持ちが分かるのは、マリーくらいだろうか。
「元近衛兵の師匠から宮廷や貴族の方々の話を聞いて、憧れました。大切な人を護る騎士がかっこいいと思った。僕は僕を必要としてくれる人のために、一生懸命になりたいんです」
ゆっくり言葉を紡いで、レオンはお嬢様の瞳を見つめた。
「レイチェル様が僕を必要としてくださるなら、僕も応えたい」
深呼吸をして、
「レイチェル様の騎士になりたいです」
レオンのその言葉を待っていたというように、お嬢様は微笑んだ。
お嬢様は最初からレオンは断らないだろうと確信していた。だからそれは安堵の笑みというよりも、もっと自信に満ちたものだった。
「ようこそ、レオン。あなたが来てくれたこと、後悔はさせないわ」
はい、レオンが頷く。
そんな彼のもとに満面の笑みのマリーが走り寄って、こそこそと何かを耳打ちする。ぐっと親指を立てるとマリーは私の隣に戻ってきた。レオンは頬を染めて視線をさまよわせている。
「何を言ったの?」
「騎士としての最初のお仕事です。これをやらなきゃ始まらないじゃないですか」
わくわくと目を輝かせるマリーの視線をあびて、レオンは観念したように息を吐く。ぎこちなく片膝をついてお嬢様に頭を下げた。
「そうね。これも必要ね」
その行動の意味を悟ったお嬢様はおかしそうに微笑んで、そっと右手をレオンの顔の前に差し出した。
「わたくしのこと、守ってね」
「はい」
レオンはおそるおそるお嬢様の手を握ると、自分の額に押し当てた。その光景がいつかの私たちに重なって、懐かしくなった。
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