第39話ボスの昔のお話

「ダブル1室とツイン1室しか無かった。でも泊まろうか。」

ボスがホテルフロントで確認するとシングル3室は空いて無かった。

取り敢えずボスと俺がツイン。シアンがダブルの部屋へ泊まる事になった。


俺とボスで良いのかなあ。邪魔していないのだろうか。でも、今は聞けないので部屋に入ってボスに聞こう。

エレベーターで5階へ。シアンは6階だった。

「また、明日ね?」

シアンはフフっと笑ってエレベーターは閉まった。

ホテルはビジネスホテルよりちょっと程度の良いくらいのホテルだった。


部屋はベッド2つに良くあるビジネスホテルの机と椅子。テレビ、小型冷蔵庫など。

まあまあ広いかな。


「お疲れさん!」

ボスはベッドに腰掛け俺は椅子に座った。


「何か聞きたいの?」

ボスって鋭いよね。


「いっぱい聞きたい事だらけです。ボスとシアンの事とか後はカプリスの皆の過去とか。」

ボスは肩を竦めてそうだろうねぇ。と苦笑した。


「俺とシアンは簡単に言うならセフレだよ。」

俺は衝撃の発言にちょっと顔が固まった。

まじか・・・。セフレなんだ。


「マフィアに雇われたシアンと戦っている時にどうしても欲しくなったんだ。これは絶対に皆には内緒。」

ボスの瞳もさっきのシアンの様でこれは本気の脅し。

「ウェンに聞いた事あるだろう?俺達は子供の頃に政府に捕まらない為にマフィアや異能者に匿われていた。その環境は・・。劣悪。だからね?セフレとか嫌いな奴もカプリスには居るんだ。」

ボスは真剣な顔で俺に諭した。


「俺とウェンが付き合うのは大丈夫なんですか?!そう言うの嫌いな人いるって!」

隠した方が良いなら隠さねば。


ボスはそこは苦笑しながら

「1番そう言うの嫌いなのがウェンなんだよ。」

と言った。

喜怒哀楽の全ての感情が12歳のウェンには無かった。ボスは当時を思い出したのか悲しそうな顔をした。俺の胸も凄く痛くなった。


「カプリス結成の話をしようか。」

ボスの話に俺は大きく頷いた。



カプリスと言うか異能集団を作ろうと思ったのは俺が匿われていたマフィアの家から脱走後。1人で盗みを働いてヘマして政府に捕まった16歳ぐらいの時だな。


実は暫く政府に捕まって居たんだとボスは苦笑した。


政府に捕まった子供は当時、脳内チップはまだ開発されて無く拷問を受けて心を折ってから洗脳されていたらしい。


拷問に屈せず何日も何週間もそんな目に合っていた。

聞くだけで顔が引き攣る。


「その政府でバックスレーとアルージャに出会ったんだ。」

ボスは嬉しそうに微笑んだ。


結成メンバーはバックスレーさんとハーミット様だったんだ!


同じ様に拷問に屈しない3人は結託して脱走する計画を立てた。

「アルージャはこう言うのにめちゃくちゃ頭が回るからね。異能でハッキングも出来るし。俺の電波妨害とアルージャのハッキング。本当に監視の一瞬の隙をついて5分間政府のシステムをシャットダウンさせた。」

すげー!!思わず叫んでしまった。


そこからは脱走。俺とバックスレーで敵を倒しながら無事に政府本部から逃げた。

脱走後も暫く追っ手が大変だっけどね。と懐かしそうに笑う。


「その後は政府組織に捕まった子供の護送車を襲撃がメインかな。」

そこで子供の解放と同時に強い奴を勧誘してカプリスを作った。


「簡単に言うならこんな感じの10年だったなあ。」

ボスは目を閉じてフフっと微笑んだ。


「ウェンも護送車から助けたんですか?」

ボスは少し悩みながらも


「違うよ。彼は盗みに入った豪邸の地下で飼われて居た。」

飼われて居た・・・。

自分の顔が固まるのが解る。そしてそれ以上聞いてはいけない気がした。聞くのも辛い。


「ウェンが話したくなるまでそれ以上は・・聞かない事にします。」

自然に涙が出てきた。

そう言うとボスは立ち上がって俺の頭を優しく撫でる。


「ありがとう。ウェンを頼むな。」

俺は涙を拭って頷く。

「はい。俺はウェンが大好きなんです!」

ボスはニッコリと微笑む。


「正直、シアンの話を聞いた時はちょっと嫉妬したね。」

はぁ。とボスは溜息を付く。

「あいつの過去は知らないけれど屈折し過ぎていて殺しにしか快楽が無い。」


ボス、本当にセフレ?

それは愛情?難しいけれどボスも結構屈折している気がする。


「ボス。シアンの部屋に行って下さい。」

「は?なんで?」

なんでそんな不機嫌そうな顔。


「こんな時しかゆっくり出来ないでしょ?俺もウェンに電話したいんで!!」

ボスは何が気に入らないのかまだ不機嫌そうだけれど。


「電話ねぇ。まあ、仕方ないか。」

ボスは苦笑しながらも少し嬉しそうで部屋を出て行った。


さてと。携帯っと。

しまった。ミッション終了時間あたりから着信3件。

ウェン、心配し過ぎだよ。

嬉しい。リダイアルっと。


「ミナキ!!」

ウェンは電話に直ぐに出た。

「ごめん。心配させ過ぎた。」

はぁー。と言う安堵の声。


「無事?怪我は?ミッション成功?」


「大丈夫。ミッション成功。でもさあ、結構危ない目にもあった!」

俺の話をウェンはうんうんと嬉しそうに聞く。

「それで、初めて殺した。」

「漸くかな?これは宿命みたいなもんだからね。」

ウェンは俺の成長が嬉しい様で褒めたり励ましたり忙しい。


「ねぇ。体術使う時に時がゆっくり動く様な感覚だったんだけど。ウェンもそうなの?」

そう聞くと

「低レベルの相手とはそう。同等だと普段と同じ。強い相手は低レベルの相手と真逆ね。クソ速いよ。」

と言った。レベルは対峙したら時の流れで解ると言うことか。


「じゃあ、あの運転手は俺より弱かったって事かあ。」

納得。

「ボスはそこ迄危ない事はさせないからね。見て殺らせようと思ったんだろう。」


ウェンに言われると妙に納得。ボスやシアンに言われた時はいじけてたけど。


「明日には帰るから。もっと話聞いてね!」

「フフっ。勿論。早く会いたい。」

離れているのはたった1日なのに。そう言われるとキュンとする。


「おやすみ。ウェン。」

「ミナキ・・。お疲れ様。おやすみ。」

ウェンの声が優しくて良い声過ぎて幸せな気分になった。



電話を切ってから暫く今日会ったことを思い出したりボスの話を考えたりした。


俺のウェン。俺のカプリス。

皆、辛すぎだろ。本当に心から護りたい。

死なせない。



まあ、今は自分の成長優先だな。

良し!服を浄化してみよう。着替え持ってきてないし。

イメージか。どうせシャワー浴びるし脱ぐか。


イメージ。綺麗になる。良い匂い。洗濯したて。乾燥してフカフカ。

「お?出来たか?」

そっと服を手に取り匂いを嗅ぐ。

「おお!洗濯されたっぽい!」

パンツ。嗅ぐ。

「おー!!上出来!」

我ながら感動した。浄化出来るじゃん!


シャワーを浴びてベッドへ直行。

めちゃくちゃ眠い。


ボスは帰って来なかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る