都合のいい男

美浪

第1章 1週間

第1話ここは何処?俺は誰?

世の中不思議な事は突然始まるものだ。



土の匂いと頬を撫でる草。ん?何で?


酔っ払った訳でもないのに地面に寝て居たようだ。


目覚めた場所。ここは草原?いや荒野と呼ぶべきかな?



立ち上がって周りを見渡す。所々に背丈より大きい岩があり、草木は少しだけ生えている。遠くには赤土の崖が見える。右も左も荒野。割と見通しの良い広い広い場所。



「此処は何処?俺は誰?」


思い出そうとするが一向に自分の名前が思い出せない。勿論、この場所も不明。夢を見ているにしてはリアル過ぎる。


服装はバイトの制服の上に紺色パーカー。流行りのボディバッグ。某スポーツメーカーのサンダル。



1度座ってゆっくり考えよう!日本人である。バイトに行く途中だった。着替えるのが面倒なので制服の上に上着を着て何時も通勤している。

そういう事は覚えている。


そ・れ・で?


バッグの中身!開けるとお茶とスマホ!


スマホに何か自分の情報があるに違いない。



「圏外は仕方ないとして初期化されてる。。何故。」


初期設定しようにも圏外だし。


WiFiも飛んでない。



財布は今日は持って出なかったのかな?スマホで何でも決済出来るから無くても困らないが。


それとも寝てる時に盗難にあったのか?



全く持って記憶が無い。


正確に言うと自分に関する記憶だけが無い。


確実に言える事は記憶喪失だと言う事と此処が多分、日本では無いという事だ。圏外だし。それか物凄く田舎?


そう、そう言う知識はあるのだ。



お茶を1口飲む。腐ってない。特に腹も減っていない。


寝ていた時間は長くは無い筈。



困った取り敢えず何処かへ移動しないと。荒野に居ても何も解らない。


立ち上がりお尻の砂をパンパンと払う。ちょっとウエストキツいな。腹筋こんなに付いてたか?ベルトを少し緩める。



右へ行く?左?悩んでいた時だった。遠くに数名の人が歩いているのが見えた。


「良かった、人が居た。」



「すみませーん!!」


叫びながら走る。あれ?足、早くなってる?


こう、景色の移動速度が異様に早い気がするが。


そう思っているうちに歩いている人の元へ辿り着いた。



近づくに連れて声掛けなきゃ良かったかなと思えてきた。


外国人?!だよね。


えーと。身長2メートルくらいの日に焼けた肌の体格の良い男が不信そうに此方を睨みつけている。


隣にも180センチ超えのメガネの男が居て、後の人達もガタイが兎に角良い!


ハッキリ言って怖そう。女性も凄く強そう。。と言うか普通の人達には見えない。



「あの。すみません。此処は何処ですか?」


聞いて逃げよう。いや、この人達は外国人だよな。


しまった英語で聞かなきゃ。


「Where? Where am I?」


で合ってる?



*♯♭⊂⊃Σ#&#


異国の言葉だ。何語だよ?!英語では無い!



怖そうな方々は何やら話し合いをしている様に見える。


チラチラと見てる怖い。



&#Σ♭♭Σ


1人の女が手を出して来た。手のひらの上には金色のピアス。


嵌めろ?と言っているのかそう言う動作を女性は繰り返す。



怯えながら自分のピアスを外して貰ったピアスを嵌める。


「言葉解る?」


不思議な事に言っている事が解る。


「解ります!凄い!何で?」



「あ、御免なさい。まだ貴方が話している言葉は解らないの。そのピアスは翻訳機ね。」



翻訳機?!ピアスを触る。そんな感じはしないけれど、そうなのだろう。



「口見せて!」


女性が下唇をグイッと引っ張ってきた。



「ぇえ!?何なんですか!?」



「だから!何て言っているか解らないわよ!次は舌出して!」


べーと舌を出す。何なんだよ。



「こいつ、唇にも舌にもピアス穴が無いわ。」


「まじか?」


口ピに舌ピ?


流石に開けてないよ。



「誰か旧型持ってる?」


女性が周りに呼びかける。


「はーい。ピンマイク型。」


もう1人の女性が放り投げる。女性はキャッチして襟に付けるように言った。



「えと。解りますか?」


恐る恐る尋ねると


「あー。漸く解った。何者?何処から来たの?」


女性が少し睨みながら此方を見る。


ピンマイクの自動翻訳機?ピアスも自動翻訳。文明が進んでる?



「いや、あの記憶が無くて。此処が何処なのか聞きたくて。」


沈黙が流れる。皆に不信そうに見詰められ睨みつけられ。怖い以外何も無い。



「不審な男だよね?どうする?」


そう見えるのか。自分の顔すら何かイマイチ思い出せないし。



「お願いします!本当に解らないんです!助けて下さい!」


今はこの怖い人達しか頼れる人が居ない。


ひたすら頭を下げてお願いする。



「此処はエバーステイって市に行く途中の荒野。」


長髪のイケメンの男性が教えてくれたが全然知らない。



「そうだ!国の名前を教えて下さい。」


男は目を顰めて


「エルドラド。本当に記憶喪失なのか?」



エルドラド?黄金郷?


聞いた事はあるが伝説上のものじゃないのか?記憶ではそんな国は無い?と思う。知識不足なら申し訳ない。



「エル・ドラドって黄金郷?」


「いや、違う。エルドラド!普通の国。」


違うんかい!とツッコミを入れれる雰囲気では無いので振り出しに戻った感じだ。



「申し訳ないのですが記憶も無いしお金も無いんです。色々この国の事とか教えて下さい。出来れば仕事が見つかるまで一緒に居たらダメですか?」



ここで見捨てられる訳にはいかない。


生きるため。何とかして日本に帰る方法を見つけなければ!後、日々生きていくお金も稼がなければ!


この人達に着いていく!最低でも街までは着いていく!



嫌そうな顔をする面々に必死で頭を下げる。



「足、引っ張るやつは連れて行けないから。誰かと戦って?それ見て決めるよ。」


俺は聞きなれない言葉を聞いた気がする。戦え?何その展開?


漫画かアニメかよ!!



しかも唐突だし。


確定だ。ここは異世界ですか?多分そうです。



男性4人、女性2人のこの人達は何者なのだろう。


皆、ジャンケンで誰が戦うか決めている。ジャンケンはあるんだね。


戦うって?そんな事した事ない。足元はサンダルだし!!


せめてスニーカーが良かった。



「よーし!やろうぜ!!」


寄りにも撚って2メートル男性。見た目野獣が笑いながら此方を見る。


腕の太さが太腿くらいある。そうだこの前見たラグビー選手に居そうな体型!


無理だ。


「お前も異能持っているよな?遠慮せず使って良いからな!」


「異能?」


詳しく聞こうと思ったのに野獣はガッツリ殴りに掛かってきた。



避ける!ひたすら避ける!



やっぱり足が早くなっているのは間違い無かった。これが異能?


避けているうちに野獣に岩まで追い詰められてしまった。



「ほら避けてばかりじゃ決着つかねーぞ!」


野獣はニヤっと笑いながら右手拳をパンと鳴らした。手が光る。



「待て!話し合おう!足は引っ張らない!ほら避けれてるし!」


話を聞かない野獣は力任せに殴りかかってきた。


今までなら絶対避ける力なんて無かった。でも、俺は地面を蹴って飛んでいた。


野獣は岩を破壊する。破片が飛び顔に傷を付け血がパッと散った。


これ食らったら死ぬやつー!


頬が痛いがそれ所では無い。



ヤバいヤバいヤバい!全力疾走で戦いを眺めていた5人の元へ助けを求め走る。



「バカ逃げんじゃねー!!」


振り返ると野獣が追って来ていてさっきよりも更に右手の拳が光っていて


ヤバい!5人を巻き込む!咄嗟にそう思った。



自分と残りの5人を囲む様に半透明なドーム状の囲い。


それは野獣の必殺技を跳ね返す程の強度。


「おー!やるじゃねーか!」


野獣がドーム状の囲いをガンガン叩く。結構、硬いぞー!とニヤっと笑いながら叫んでいる。



「結界かー。魔法系だね。」


女性がそう言った。


魔法?結界?異世界チート能力ってやつでしょうか?


良かった!無能じゃ無かった!



何故、この能力が発動したかは不明だがこれで何とかなるんじゃないだろうか?!



「防御系は貴重だから連れて行くか。」


もう1人のデカいメガネの男性がそう言った。



「是非!お願いします!」


これで何とかこの世界で生きて行けそうだ。ちょっと怖そうな人達だけど文句は言えない。


今からエバーステイ近くの仮のアジトに行くからと言われ着いてくる様に言われた。


仮のアジト?やっぱりヤバそうな人達な気がする。



でもなあ。金無し、住む所無し、住民票とかある世界なのかな。必要な世界だったら仕事も家を借りる事も出来ないじゃないか。




暫く歩いて思った。これ着いて行かなければ道解らなかったよ。そう思える荒野。景色が殆ど変わらない。赤土と草、砂利。



6人の男女は特に会話もしないでただ歩いている。

1つ気が付いた。俺・・・。男性が好きなのかもしれない。

2メートルの野獣はちょっとパスだが。

180センチ長身の黒髪にメガネのイケメン。二重のクールな感じがカッコいい。

もう1人の長髪黒髪の男性は目が切れ長でこの人もカッコいい。後1人は金髪でヨーロッパ系の綺麗な顔立ち。

ついつい見てしまう。


女性も美人なんだけどな。金髪美人と茶髪の可愛い系。でも?男性に目がいく。

俺ってそうなの?


「あの、俺は名前とか思い出せないんですけど皆さんの名前は何ですか?」



ピアスをくれた何かと世話を焼いてくれた金髪の女性が此方を見る。


「ああ、貴方の名前無いのは不便ね?名無しだからナナシで良いかしら?」


ナナシって。まあ、良いんですけれど。


「私達の名前な秘密。ボスに認められるまでは語れない。1週間後に多分、教えてあげる。」


それ迄は適当に呼んで良いわよ。と言ってくれたけれど。困る事を言う方々だ。


そう簡単にあだ名等つけたら何される事やら。



名前も解らないまま。また前を見て歩き出した。



1週間後?


この人達のボスにも認められないといけないのか。



「何の仕事なんですか?」


情報欲しい。



「盗みや殺し。」


野獣が笑いながら言った。


愛想笑いで誤魔化す。



逃げたくなってきた。



1週間と言う変な条件。その間だけでも我慢してみるか。この世界の内情が解ったら逃げる選択肢もある。



「一応、警戒して。雑木林。」


ピアスをくれた女性が遠くを指差す。そう言われると足元の草も増えてきているし。調度、雨が降る、降らないの境なのかもしれない。段々と草原になりその先には雑木林が見えた。



警戒か。何か出てくるんだろうか。木々の間を進む。


木漏れ日程度の明るさの雑木林はそれ程見通しが悪い訳ではなかった。


少し進むと雑木林を抜け郊外の街並みが見えてきた。


その奥にはビル群。



「まだ街には入らない。」


今まであまり喋らなかった金髪の綺麗な顔立ちの男性がそう言って親指を立て右側を指した。


明らかに荒廃した感じのビルが数棟立っていた。



あれが仮のアジト?



頷いて黙って着いていく。



廃屋ビルか。


「跳べるわよね?さっき出来てたし。2階の窓へ。」


ピンマイク翻訳機をくれた可愛い系の女性がビルの2階の空いている窓を指さした。


何故、素直に階段を使わない?顔を引き攣らせて抗議しようとしたが皆、地面を蹴って2階の窓から中へ入っていく。



あの体格でも跳べるんですね。野獣やもう1人の180センチオーバーのメガネ男性も入っていく。


これは審査か!?


そうなんだろうな。足を引っ張る存在かどうかの判断材料なんだろう。


クソ!!


「せーの!!」


助走を付けて地面を思いっ切り蹴る。


やっぱりこの運動能力は異能だ。2階の窓枠をギリギリで掴みよじ登って中へ入る事が出来た。


この能力持ったまま日本に帰りたい。オリンピックに出られそう。



「うっわ!」


廃ビルの中は事務機器の壊れた物やガタガタの倒れた机等で荒れていた。ちょっとカビ臭いし。



「階段上がるよ。」


「了解。」


ピンマイクをくれた女性が待っていてくれて階段を上がる。


やはり審査だったんだろうな。



廃ビルの4階。



一緒に来た6人の他に3人の男性と壊れた机の上に足を組んで座っている男性。合計10名の男女。これがメンバーかな。



「へー?異世界人だね。拾ったの?」


机に足を組んで座っていた男性が声を掛けた。異世界人。この人解るんだ。


20代半ばくらいの凄く目を引く黒髪に金メッシュの入ったイケメン。ちょっと軽そうに見える。



「此処に来る途中の荒野で。記憶無し、翻訳機なし。舌と唇にピアス穴無し。行く所なし。金無し。暫く置いて欲しいと言っている。」


ピアスをくれた女性が簡潔に説明していた。舌ピアスや口ピは関係あるのだろうか。



「ふーん?匂いが強いから来たばかりだね?」


机に座っていた男性が俺を見る。



「匂い?!えっと多分さっき来たばかりだと。」


臭いのか?自分の服の匂いを嗅ぐが良く解らない。



「異世界人特有の匂いだよ。1週間で消える。匂いが消えると記憶が戻るから。そしたら色々教えて欲しい。名前やこの世界へ来た経緯とかね。」


男はそう言った。1週間・・・。



「ナナシって名付けたわ。不便だから。」


ピアスをくれた女性がそう言うと男性は笑いながら



「じゃあ、俺の事はボスと呼んでね。じゃあナナシ君を誰か1週間匿って貰おうかな。」

匿う?


「君は1週間外出禁止。何故なら異能力者に匂いでバレるからね。それが嫌なら出て行く事だ。」

う・・・。捨てられたくはない。

「解りました。」

そう素直に頷く。


「はーい。うちに泊まると良いよ。」

1人の男性が手を上げた。髪は少し長めの茶髪で身長この人もデカい。そしてガッチリしていて二の腕とか筋肉しか無い感じがする。

何よりもイケメン・・・。

ただ何故か醸し出す雰囲気が怖い。


ザザザ・・・・・・

翻訳機にノイズ音が走り皆の声が聞こえない。

何話しているんだろう。聞くに聞けないが。

少し待つと

「では、1週間後に。」

ボスはニヤっと微笑んだ。

「了解。」

行くよと俺を泊めてくれると言う男に取り敢えず着いていく事にした。

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