第47話

 昨日は凄い一日だったなぁ。

 お兄ちゃんが水瀬先輩を振るシーンを見ちゃったり、その後参加した打ち上げの後での新島先輩とお兄ちゃんのやり取りを聞いたり。 

 新島先輩がなんで私にまで話を聞かせたかは未だに分からないけど、問題は水瀬先輩なんだよなぁ。

 もしこれで水瀬先輩がお兄ちゃんから離れていってしまったら絶対お兄ちゃんのグループの雰囲気は悪くなる。そうなると中居先輩が黙ってないだろうし……。


「それに……お兄ちゃんの好きな子ってやっぱり――」


 試験勉強をしていたがどうしてもその事が頭に浮かんでしまう。

 残る候補は沙月ちゃんだけだからほぼ確定なんだろうけど……沙月ちゃんはお兄ちゃんのことどう思ってるんだろう。

 

 私のことを応援すると言ってくれてたけど、私の事を理由に断って欲しくない。

 例えお兄ちゃんが沙月ちゃんと付き合ったとしても、私はお兄ちゃんの妹だし、これまで通り傍に居られるだけでいい。


 そんな事を考えているとスマホの通知音が鳴った。

 スマホを手に取り確認する。


「水瀬先輩からだ……」


 アプリを開いてメッセージを確認する。


〈大切な話があるから今から話せないかな?〉


 大切な話ってなんだろう? それよりも気持ちの整理はついたのかな。

 とりあえず返信しないと。


 〈大丈夫ですよ〉

 〈ありがと。沙月ちゃんにも話すから今グループ作るね〉

 

 わざわざ3人だけのグループを作って話すことってなんだろう?

 そう考えている内にグループへの招待が来たので参加する。

 沙月ちゃんも参加して全員揃ったところで通話が掛かってきた。


「もしもし、こんにちは」

「南さんこんにちは~」

「2人ともこんちはー。急にごめんね~」

「いえいえ、大丈夫ですよ」

「はい、丁度暇してたので問題ないです」


 話し方や声のトーンはいつもと変わらない。

 これが空元気なのか、既に気持ちの整理がついているのかが問題だ。


「実は楓にはもう言ってあるんだけど、二人にもちゃんと言っとかないとって思って」

「え~、何ですか~? 気になります~」


 新島先輩には既に話してあるって事はお兄ちゃんに告白した事かな?

 でもそれなら私も既に知って……あ! 私は覗いてて知ってるけど水瀬先輩は知らないんだった。


「えっと、実は昨日……トモに告白してフラれましたー!」

「……えーーっ! マジですか!」

「そ、そうだったんですかー、しらなかったなー」


 ここで私が知ってるとバレたら話がややこしくなるので知らないフリをする。


「うん、思いっきりアタックしたら見事に玉砕しちゃったよ」

「大丈夫ですか? 落ち込んだりしてませんか?」

「そ、そういえば昨日の打ち上げ来てませんでしたけど、それが理由だったんですね」

「そっか、昨日柚希ちゃんも打ち上げに参加してたんだね。迷惑かけてごめんね」

「いえいえ、そんな、迷惑だなんて思ってないですよ」

「ありがと、そう言って貰えると助かるよー」


 そう言って水瀬先輩はあははと笑う。

 どうしよう、気持ちの整理がついたのか聞いても大丈夫なのかな?

 それとも見守る程度におさめた方がいいのか……。


 と思考を巡らせていると水瀬先輩が真剣なトーンで話しだした。


「昨日トモにフラれて凄い落ち込んだんだよね。部屋でずっと泣いちゃってさ……。泣き止んだ後に色々気づいたの……私ってこんなに弱かったんだって」

「先輩……」

「南さん……」

「そこで思い知ったんだ。今まで私はトモに頼り切りだったって。トモって結構頼りがいあって優しくて……それに甘えてたんだと思う。そんなトモが私や楓を振るのはトモ自信も悩んだと思うし決意も必要だったと思う。だから今までみたいに甘えてちゃダメなんだって思ったんだ」


 ここまで話して3人共黙ってしまう。

 そうだよね……告白するのに勇気が要る様に、それを断るのにも勇気や誠実さが必要なんだ。

 めぐの時、めぐを振った事で胸が痛んだって言ってたもんなぁ。

 付き合いの長い新島先輩や水瀬先輩を振った時は、お兄ちゃんはどれだけ傷ついたんだろう。


 そう考えた時、自然と口が開いた。


「あの、水瀬先輩はもう心の整理は出来たんですか?」

「正直言って今でもトモの事は好き。そんな簡単に切り替えられるような恋はしてなかった」

「それじゃあ……」

「大丈夫。もう一度告白しようとかは考えてないよ。ただ水瀬南という一人の女の子が佐藤友也という一人の男の子に恋してた。それを思い出に出来るのはまだ時間が掛かるかな」


 簡単に忘れられる恋なんて無い。

 それが思い出になるには水瀬先輩の言う通り、時間が掛かるんだと思う。


「まぁ私の今の心情はこんな感じかな」

「南さんカッコイイです~」

「全然カッコ良くなんてないよ~。未練タラタラだし、今後トモとどう接したらとか色々考えちゃうよ~」

「今まで通りに接すれば良いんじゃないですか? 友也さんもきっとそれを望んでますよ」

「そうかな~。柚希ちゃんは妹としてどう思う?」


 話題を振られて少し焦る。

 妹としてどう思うか……かぁ。


「今まで通りで良いと思いますよ。お兄ちゃんもギクシャクするのは嫌だと思いますし」

「そっかぁ。今まで通り……私って今までどう接してたっけ!? あれ? どうすればいいんだろう!」

 

 突然水瀬先輩がパニックになる。

 今まで無意識にお兄ちゃんと接してきたからどう接すればいいか分からず混乱している。


 私もどう落ち着かせようかと悩んでいると、沙月ちゃんが大声で割り込む。


「あーーもう! 全然南さんらしくないじゃないですか!」

「でも~」

「でもじゃありません! 私が思うに南さんは男性経験が少ないんです」

「だ、男性経験!?」


 男性経験って……と思ったけど今はそういう意味じゃ無さそうだ。


「変な意味じゃないですよ! 男友達とか少ないんじゃないですか?」

「な、なんだそういう意味かぁ。確かに男友達は多い方じゃないけど……」

「ですよね! だったら経験を積むしかないです」


 そこまで聞いてピンと来た。


「もしかして沙月ちゃん……」

「うん、ちょっと荒療治だけどね」

「え? 何? 何の話してんの」


 私と沙月ちゃんのやり取りを聞いて怯えた様子を見せる水瀬先輩に沙月ちゃんは容赦なく話を続ける。


「南さん、今度私と遊びに行きましょう」

「え? 今の流れだと不安なんだけど!」

「まぁまぁ、きっと南さんも楽しめますよ!」

「ほ、ホントに?」

「本当ですよ。なので今度私に付き合ってください」

「わ、わかった」


 あまり納得していない様子だけど沙月ちゃんの勢いに圧された感じだ。

 まぁこうでもしないと水瀬先輩はいつまでもウジウジしそうなので、これはこれで良かったのかも。


 何はともあれ、水瀬先輩の件は沙月ちゃんのお陰で良い方向で決着がついた。


 だけど沙月ちゃんは気づいていない様に思う。

 残るハーレムメンバーは沙月ちゃんだけで、お兄ちゃんの本命かもしれないって事を。

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