第39話

 駅で中居先輩やお兄ちゃんと別れて今は近くの喫茶店に来ている。

 新島先輩の「女子会だから」の一言で男子は納得した。

 しかし及川先輩は「だったら私も参加するよ!」と提言してきたが、新島先輩が何やら耳打ちをすると顔を真っ赤にして渋々引き下がった。

 一体何を言ったんだろう?



 そんな経緯があり、今はハーレムメンバーしか残っていない。

 皆の注文が届いたタイミングで新島先輩が


「今日は急に誘ってごめんなさい」


 とペコリと頭を下げる。

 すると皆を代表する様に水瀬先輩が質問をした。


「急にどうしたの、楓?」


 私も感じていた疑問を聞き、新島先輩は少し俯いた後、真っすぐ私達を見据えた。


「私、ハーレム脱退するね」


 思いもしない告白だった。

 ついさっきまでは皆で楽しくやっていけると思っていた。

 それだけに新島先輩の告白は衝撃を受けた。

 他のメンバーも私と同じ事を思っていたらしく言葉が出て来ないようだ。

 

「何で……ですか?」


 私が問い詰めると新島先輩は淡々とした口調で言葉を続けた。


「昨日、友也君と柚希ちゃんの話を聞かせてくれたでしょ?」

「はい」

「正直、安心したの。友也君はずっと昔から変わらない――自分の事よりも先に周りの事ばかり優先して考えちゃうお人よしなんだなって」


 私もそう思う。

 水瀬先輩達も同じ気持ちなのか小さく頷いていた。


「同時に思ったの。『今の私はそんな友也君に甘えてるだけだ』って」

「甘え、ですか」

「私はみんなの事大好き。だからこそ、妹とか恋人とかじゃなく女として対等でありたいと思ってる」


 新島先輩がここまで考えていたなんて……。

 そうだよね。

 今の状態じゃ対等に恋してるとは言えない。


 だから……新島先輩が何を言いたいか分かる。


「だから私、友也君に告白する」


 と、ハッキリと私達に告げた。


「やっぱりこうなっちゃいましたか~」


 と沙月ちゃんが驚く様子も無く言う。


「でも仕方ないですよね。友也さんを独り占めするにはハーレムには居られない訳ですし」

「勝手な事言ってごめんね」

「いえいえ、いつかはこうなると思ってましたから」


 すると、水瀬先輩が勢いよく立ち上がった。


「楓が本気なのは分かった。楓がやめるなら私もやめる!」


 水瀬先輩の宣言に新島先輩は一瞬だけ目を見開いた。


「別に私に合わせてくれなくてもいいんだよ?」

「違うよ楓。私も、トモには私だけを見て欲しいから」

「南……」

「そんな顔しないの! 私は楓と正々堂々勝負するんだから! だから手加減なんかしないからね!」

「……ええ。望むところよ!」


 そう言って先輩達は笑顔で握手を交わした。

 ふと私は、新島先輩とお兄ちゃんが別れた時の事を思い出した。


 あの時は、お互いの事を思い合ったから気持ちがぶつかり、すれ違っていた。

 だけど今は、あの時よりもずっと強い絆が先輩達の間に見えた気がした。

 ここまで信頼して言い合える2人は、やっぱり親友なんだ。

 

「あーあ、ハーレムも今日で解散かぁ。楽しかったのになー」

「こら、沙月。そんなこと言っちゃ失礼でしょ」

「いいんです。むしろ私の我儘で解散になってしまって、すみません」

「そんな、こちらこそ沙月が失礼を言ってごめんなさい」


 友華さんと新島先輩はお互いに謝罪し合っている。

 これでバラバラになっちゃうのかな。


「ま、でも私は良かったと思うな」

「水瀬先輩……」

「そーんな顔しないでよ柚希ちゃん! これで私達の仲がダメになるワケじゃないんだからさ!」

「そう、ですよね」


 ハーレムが解散したからといって友達関係が無くなる訳じゃないんだ。


 そう理解した途端、なんだか安心した。

 すると沙月ちゃんがニヤニヤしながら。


「どうする? もしかしたらどっちか将来のお姉さんになるかもしれないよ~?」


 と言ってきた。

 それだけは断固阻止したい。


「ふふ、そうなれるように頑張るわ」

「よーし私も負けないぞー! とりあえず景気付けに乾杯しよう!」

「「おーー!」」


 水瀬先輩の一言で臨時女子会は暫く盛り上がった。



 いつもより遅めの帰宅になってしまった。

 お兄ちゃん達は先に晩御飯を済ませたようだけど、お父さんとは仲良く会話してたらしい。


 お兄ちゃんにはハーレム解散についてはまだ伏せておこう。


 部屋に戻りベッドに倒れ込むと同時に沙月ちゃんから電話が掛かって来た。


「今日はすごい偶然だったね」

「お姉ちゃんは私が呼んだんだよ」

「え、そうなの?」

「うん。楓さんからLINEがあって、今日みんなでお店に来るって言うから」

「そうだったんだ」

「わざわざ大人数で来るのを、お店じゃなくて私に知らせてくるんだもん。これは何かあるなーって」


 確かに、新島先輩が自らお兄ちゃんに抱き着いたり、自分の奢りでみんなを集めたり、思い当たる点がいくつもあった。


「きっと最初からハーレムを暴露するつもりだったのかもしれないね」

「私もそう思ったよ。だから、一応お姉ちゃんにも声かけたんだ~」  


 それにしても、僅かな情報でそこまで察せるって凄くない?

 沙月ちゃんは探偵さんになった方がイイと思う。

 

「それで、いざ暴露ってなった時は私から言っちゃおうと構えてたんだ。一応、提案者だし」

「そっかぁ。正直驚いたよ」

「んふふ~ごめんね」


 沙月ちゃんがサポートしてくれて心強い。

 そう思ったからこそ、私は確かめたい事があった。


「沙月ちゃんはさ」

「なぁに?」

「お兄ちゃんの事、本当は好きだったりする?」

「なになに~? 私がカワイイから心配になっちゃった~?」

「うん」


 沙月ちゃんは少し黙った後、真剣な口調で話し出した。


「違うって言ったらウソになるかな」


 期待とは反対の答えに言葉が詰まった。


「ハーレムの一員としてみんなで遊んだりして、私自身も友也さんの魅力に惹かれていってた。もし自分が友也さんの彼女だったらって妄想したりしてたりね」

「そう……なんだ」

「あ! でもぞっこんになったってわけじゃないから!」

「え?」

「あのね、友也さんに対する気持ちは本当だよ? 正直、柚希ちゃんと知り合う前だったらオチてたかもね」


 そう言って沙月ちゃんは慌てて私を慰めてくれた。

 

 ――もし沙月ちゃんとお兄ちゃんが付き合ってたらどうなってたんだろう。

 たぶん私はお兄ちゃんの事がもっと好きになっている気がする。

 

 こんな素敵な友達が好きになるお兄ちゃんなんだから。


「そりゃそうだよ。私のお兄ちゃんはカッコイイんだから」

「ごめんね、不安がらせちゃって。柚希ちゃんには嘘はつきたくなかったんだ」

「平気だよ。話してくれてありがとう」

「これからも柚希ちゃんを応援するから安心してね!」

「うん、ありとう」


 その後少し雑談して通話を切った。

 

 仰向けになり今日の出来事を思い返す。

 中居先輩達がハーレムを受け入れられた事には驚いたなぁ。

 だけど、新島先輩がハーレム脱退を宣言した事にはもっと驚かされた。


 ハーレムが無くなってしまったけど新島先輩と水瀬先輩の絆の深さが見えた。

 そして沙月ちゃんは私を応援してくれると言ってくれた。

 

 私も決意を固めないと……。

 そんな事を思いながら眠りに就いた。

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