現在:12
「ふふふふふ」
「睦月、街中で不気味に笑うのやめろよ」
フェイタス神聖国――『勇者』と『聖女』を召喚する事が出来るその場所に俺と睦月はようやく足を踏み入れた。
とはいっても此処はまだフェイタス神聖国の端だ。
まだサンティア帝国を出発して此処に来るまで二フィンも経過していない。だというのに睦月は三ケタにも上りそうなほどに人を消していた。
まぁこの世界は『地球』のようなインターネットはない。
一瞬で世界に情報を配信するだなんてこの世界の連中が聞いたら倒れそうな技術はない。
そもそも一瞬で人を消せるほどの魔力を睦月が持っていると知るものもそんなに居ない。
睦月と俺は『蘭』の一員として他国でも活動した事はある。だけれども睦月の力を実際に知るものは居ないといえる。
なんたってそれを見た人間は高確率で命を散らしている。睦月に力を向けられて生きているものはそうそういないのだ。
死人に口なしって奴である。
隣を歩く睦月は見るからにご機嫌だった。
俺が許可を出してからあれだけ好き勝手人殺し(ストレス発散)を行ったのも一つの理由だろう。睦月はすっきりした表情をしている。
それともう一つの重大な理由は、もうすぐ『勇者』―――向井光一の所にようやく、二年ぶりに行けるからだろう。
睦月にとって向井光一に会える。
たったそれだけで天にも昇るような気持ちになっているだろうから。
本当睦月はわかりやすくて、真っすぐで、その思いは『純粋』と称するのがふさわしいかもしれない。
どれだけ睦月が狂っていても、どれだけ狂気に侵されていても、それでも俺は睦月を純粋だと思うのだ。
人が人に感じる感情なんて人それぞれ違う。
周りがなんていっても俺は睦月の事を馬鹿みたいに純粋で、真っすぐだと思う。寧ろだからこそこんなに狂っているのだと思う。
「いいじゃんか! 折角愛しい愛しい光一に会えるんだよー。それなのに興奮せずにいられるわけないでしょ。うふふふ、こーいち、私のこーいち、私が迎えに行くからね」
俺に向かって興奮したように笑ったかと思えば、独り言のように睦月はそう口にした。
「良かったな、睦月」
俺は睦月に頷きながらも、口元を上げる。
ああ、楽しみだ。
今の睦月をあんなに正義感が強い向井光一が見たらどう思うだろうか。
狂った睦月を一切見もしなかった向井光一の前で狂気を見せつけたら、どんな行動をとるだろうか。
予想は出来る。
それでも実際に見るのと予想をしているのとはまるで違うものだ。俺は楽しみで、わくわくして仕方がないんだ。
向井光一が例えば俺が予想している通りの反応を示した時にもっと壊れるであろう睦月を見る事が。
向井光一が例えば俺が予想もしていなかった行動をした時、俺はそれにきっと笑うだろう。
どっちでもいいけれど、とりあえず睦月がもっと壊れた姿を見せるような対応を向井光一がしてくれればいい。
俺はもっと狂って、壊れた睦月を見てみたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます