古ゴート族の村へ



「えーっと、嬢ちゃんに会ったのはこっから東に歩いて半日ばかりのとこで。ああ、あの山のふもとの方でさあ」

 俺たちは早速外に出て、彼女の仲間のいる村へと向かおうとする。


「村はそこからさらにちょっと先なんです。い、急げば、まだ、きっと……」

 言っている傍から表情を曇らせるティキュラ。まあ、だいぶ時間が経っていることは間違いない。

 ここからは少々急がなくてはな。


「二人とも、俺に乗れ」

「へ?」

「えっ?」

 歩いて半日か。確か徒歩何分というのは人間の基準なら分速80mだったか。ざっと計算して半日なら60㎞ぐらい、ベーオウの歩幅ならもう少し短いか?


「い、いやいや旦那っ! 流石に俺が旦那に乗るのは」

「四の五の言うな。武器を担いでいて構わん。ティキュラも、胴体に巻き付いていいから」

「そ、その、は、はいっ! お願いしますっ!」

 二人はためらいながらも屈んだ俺に乗ってくる。俺は二人を背負うようにして立ち上がり……。


「行くぞ」

「うぐぇっ!?」

「わぁっ!?」

 地面を蹴り、飛ぶように駆けだした。


「うぐおおおおおおっ!? こ、こんっ、ううおおおっ!」

「きゃああああああああああああっ!?」

「すまんが時間がないのでこのままいくぞ! 息苦しくなったら俺の背中で風を避けろ!」

 大地を蹴り砕き、弾丸のように荒野を進む。

 流石に二人に配慮して抑えているが、これではだいぶ時間がかかってしまうかもな。


「今のうちに、村や襲ってきたという人間の事について詳しく聞きたい」

「ぐっ!? あううっ! くっ! は、はいっ!」

 ティキュラは何とか体制を立て直しながら、俺の背中で力強く返事をした。


「む、村はっ! 【古ゴート族】の村ですっ! 小さな、集落でっ!」

「ん? 古ゴート族?」

「四つ足の奴らでさあっ! 上半身は俺や旦那みたいな感じですけど、頭の後ろから角が生えててっ、下半身は獣の体をしてやすっ!」


 ほうほう、それはあれか? ケンタウロスみたいな感じか?

 ゴートという名前からすると……ヤギ?


「ティキュラと同じラミアじゃないのか?」

「あっ、えと、違いますっ! でもっ! 仲良くしてくれてっ!」

 ふむ、種族を越えた友情か。美しい事だ。


「襲ってきた人間については?」

「くっ! と、突然現れてっ! 村を襲ったって言っていましたっ! 私っ、その時はそこにいなかったのでっ!」

「……人間の国の軍隊か?」

「に、人間の事は詳しくなくて分からないですっ! 数は、たぶんっ! 五十人くらいでっ! でもっ! すごく強い鉄槍を持っていてっ!」

 鉄槍、か。ふうむ、中々に原始的な感じだな。


 正直強い武器というから、てっきり鉄砲とか大砲とか、あとは巨大投石機やバリスタみたいな飛び道具的なモノを想像していたんだが。その程度なら……。


「人間たちがその鉄槍を前に突き出すと、わ、分からないうちにみんなが血だらけになっててっ! 建物に隠れててもほとんど意味が無くてっ!」

「……ほう?」

「な、何だぁそりゃあっ!? 槍で突かれたのかっ!?」

「本当に、何をされたかも分からないんですっ! そ、それで、みんなやられちゃってっ!」


 ……どうやら俺の知っている人間の知識で図らない方がよさそうだな。


「そいつらの、目的は?」

「そ、それも分かりませんっ! 何にもないはずの村ですしっ! これまでも誰かが攻めてきたなんてこともなくてっ!」


 雲が景色と共に流れていく。

 だんだんと段差が多くなり、荒野から、岩山のふもとへと地形が変わってきた。木も点々と生えてきて、地面には獣道のような誰かが頻繁に通る跡も見えてくる。


「ベーオウ。お前たちオークなら、その古ゴート族の村を襲うか?」

「えっ!? ま、まあ俺たちゃ女がいればどこだって襲いやすがっ! 話通りなら、ろくな物もない村は普通襲われやせんっ! 大して得るモンもありやせんからっ!」

 得るものがない村は襲われない、か。


「みっ、見えてきましたっ! あそこですっ!」

「よし、スピードを落とすぞ」

 俺は背負った二人の負担にならないよう、地面を削りながら徐々に速度を落としていく。ティキュラの指さした先、遠く、煙のもうもうとあがるその村を見つめて。


「……」

 ティキュラが助けを呼びに行き、オークに捕まってから丸一日。

 ……どうか、皆殺しにされていた、なんてことにはなっていないでくれ。


「まずは様子を見たい。どこから近づけばいい?」

「だ、だったら向こうの茂みになっている方からっ!」

 俺にそう言ってから、小声で、無事でいて、と呟くティキュラ。

 背中を力強く、祈るように握ってくる。


 俺はそんな彼女にかける言葉を探して、だが、言葉を紡ぐこともできずに押し黙っていた。


 そんな彼女の祈りをあざ笑うかのように、漂ってくるのは血の匂いだったから。



<現在の勢力状況>

部下:なし

従者:ベーオウ(仮)

同盟:なし

従属:なし

備考:ラミア(?)ガールのティキュラと、彼女の仲間を助ける契約中





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