第8話 今のご時世じゃあ
薄寒い風に包まれ、指先凍る春のことだった。A通路は通ってはならないと言われていたが、少年はあまりの寒さに近道を思いつき、電灯が明滅を繰り返すそこへ足を踏み入れてしまった。
通れば蛇になる。そんな言い伝えがある、線路下のトンネル通路だ。
翌日、少年の私物と共に、一匹の蛇が発見された。
少年の両親は、息子が本当に蛇になってしまったと嘆き、その小さな蛇を引き取って世話をすることにしたそうだ。
蛇のような、黄金色のガラス玉のような瞳を持つ警察官が、狐顔の神主にそう言っているのを聞いた。
たかが線路下にあるトンネルの通路に、人間を蛇に変えてしまう力などあるのだろうか?
「そろそろ疑われても知らんぜ」
一応、忠告をしてやると、蛇の目の警官と狐顔の神主は揃って私を見、ニヤリと嫌味な笑いを浮かべて口を開いた。
「はは、神隠しなんて、今のご時世、誰も思い浮かべやしないよ」
「そうですよ狸顔。知っていて止めなかったお前も同罪です」
参ったな、これはどうも。
ただ、白くて珍しいとはいえ、蛇一匹と交換だなんてケチ臭いと思う。
そういえばあの少年、きれいな顔をしていたな。あれは天狗好みだったろう。
……高値で売れてしまったろうな。
狸顔には、どうすることもできないが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます