見えすぎた男

 僕はしがない将棋指し。

 今日はトーナメントの決勝戦。特別強いわけでもない僕がここまで勝ち上がってこられたのは奇跡に近い。

 いてもたってもいられず、願掛けでもするか、と行きつけの神社にお参りに行った。

 その時、声が聞こえた。

「いつも、ご利用ありがとうございます。日頃の信仰の報酬として、貴方に八百万を見通す力を差し上げましょう」

 勝利を願うあまりに幻聴を聞いたと思った。


 ーー決勝戦。

 対戦相手の名人が、一手目を指した瞬間、僕の眼前には八百万の棋譜が並んだ。視界に収まりきらないほどに展開された将棋盤の上では、駒がひとりでに動いていた。そして僕は、それらすべての駒の動きを把握することができた。

 あれは、確かに神様の声だったんだ!

 僕は歓喜した。これなら余裕で勝てる、と思った。

 僕はゆっくり、じっくりと棋譜を眺めて、言った。


「ーー参りました」

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