第32話
それから少しの時が経ち深間駅近くのファーストフード店、片方はソファ、片方は丸椅子と格差社会を表したような馴染みある四人掛けのテーブルに俺達はついていた。
ソファ側には田宮と棚橋、そして丸椅子側には俺と……、
「では早速、昼間の告白を如何にして阻止するかの議題を始めたいと思う」
当たり前のように仕切りだすクソ野郎が座っていた。
「では早速――じゃねーわッ! なに平然と場所決めしてんの、なに平然と仕切りだしてんの、なに平然とここに座ってんのッ!」
俺は溢れ出る疑問の数々を浴びせたが、当の本人は動じる様子もなく気障ったらしく眼鏡をくいッと上げる。
「それは俺も『昼間の告白阻止し隊』のメンバーだからに決まってるだろ」
「そんな隊を発足した覚えはないし仮にあったとしてもまずお前は入隊させんわッ! ていうかそこの二人もなに普通にこいつを受け入れてんの?」
「え、だってガネ君の友達なんでしょ?」
「私もそう思ってたけど……なに、違うの?」
あっけらかんと言ってのける田宮と棚橋。その二人に答えるようにして隣の眼鏡がこくこくと頷く。
「違う違う全然違う。赤の他人だ」
「おい黒金、それはいくらなんでも酷というものだろう。俺達は男子トイレでひと時を過ごした仲じゃないか」
「ちょッ、おまッその言い方だとあらぬ誤解生むからやめろって」
見れば田宮は顔を引きつらせ、棚橋はこの世の憎悪を宿したような目を俺に向けていた。
「わかった、友達でも親友でもなんでもいいからマジで黙っててくれ。一生のお願いだ。頼む、眼鏡」
「ようやく俺を認めたか。だが友なら名前で呼んでくれないか? さすがにクソ野郎や眼鏡や肥溜めなんて呼ばれると心が痛む」
「いや最後のは一度も口にしたことないんだけど。ついでに言えば一生のお願い速攻で破棄されたんだけど……まあいいや、んで名前? 呼ぶ呼ぶ、全然呼ぶからおとなしくしてて」
「そうか、では早速頼む」
そう言って体をこっちに向け姿勢を正す眼鏡。その律義さ――否、面倒くささに俺は嘆息する。
「しょうがねえなぁ………………………………」
やばい、こいつの名前なんだっけ? 一応クラス全員のフルネームは覚えたつもりでいたがこいつはマジでわからん。一体何者?
「どうした? 焦らしプレイの一環っか? 悪いが今は求めてないぞ」
押し黙る俺を見てなにを勘違いしたのか、見当違いな指摘を入れる眼鏡。しかし今の俺には突っ込む余裕がない。ついでに言えば一向に思い出せる気がしない。
「……あれ、つい最近転校してきたんだっけ?」
「一年の時からいたが」
「だ、だよな」
「うむ」
「……………………」
「……………………」
気まずい空気が流れる。向かいに座る女性陣は早い段階から察していたのかさっきから可哀そうなものを見る目で眼鏡を見ていた。
「…………まさかとは思うが……」
店内の喧騒がやけに耳を通る中、沈黙を破ったのは表情をこわばらせた眼鏡だった。
「俺の名前がわからないというオチではないだろうな?」
「…………その、まさかだッ!」
そう俺が口にした次の瞬間、眼鏡は血の流れが止まったかのように顔面蒼白になり意気消沈した。わかりやすいほどの落ち込みようだ。
「ガネ君ガネ君! 三谷君だよ、
見兼ねた田宮が慌てながらも助け舟を出した。ナイスだ田宮!
「そ、そうだ三谷だ! ようやく思い出したぞ! 三谷、もう絶対に忘れないから元気出してくれ!」
「……知らなかったんじゃなく、忘れていただけなのか?」
「お、おう! 忘れてただけだ!」
「そうか、なら良かった」
さっきまでの落ち込みようが嘘のように元に戻った三谷。正直どっちもどっちな気がしてならないが本人が良いいのなら口出す必要は無し。というよりこの蛇足なやり取りを一刻も早く終わらせたかった。
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