第11話 押し寄せる理不尽な脅威
襲撃者を迎え撃つための大規模な
上級種のアヴァンがその姿を現した入口の向こう側には、何もない
天井も壁も床もない。
こいつは……不正プログラムの成せる所業だ。
「チッ。人の隠れ家を勝手に解体してんじゃねえぞ。クソ野郎が」
そう吐き捨てる俺の
「この世界の在り様を身勝手に変えてしまうなんて……」
そんなティナの
「きゃっ。バ、バレットさん?」
「上だ!」
俺が見上げる先では天井が奇妙な形に
「見つけたぜ。見習い天使。そこの下級種を
「バレットさん! 応戦しないと!」
「いいから来いっ!」
俺はティナの
予想していたことだが、ディエゴの不正プログラムがあれば建物内への侵入のみならず、この
そうなる前に勝負をつけなきゃならんが、ここじゃ
「場所を変えるぞ!」
アヴァンもディエゴも逃げ去る俺たちを面白がるように
くそが。
逃げ回るネズミをじっくりいたぶるつもりなんだろうよ。
だが、てめえらはそのネズミに逆に
今に見ていやがれ。
俺とティナは階段を駆け上がると通路を引き返す。
だが……。
「いけないバレットさん! 止まって!」
ティナが必死の
「何だティナ……」
そう言いかけた俺は、なぜティナが突然声を上げたのかすぐに理解した。
そこかしこに散乱していたはずの
「……
ディエゴが不正プログラムでこしらえた
森でティナが飲みこまれ、
さっきまで床に散らばっていたはずの各種の刃物は、その
ティナが
「逃げられると思ったか?
その声に俺たちが振り返ると、背後からゆっくりと階段を上ってきたディエゴが、ニヤニヤとムカつく猿顔を見せてそう言った。
チッ。
すぐに
「やれやれ。
そう言うとディエゴは不愉快なせせら笑いを響かせる。
その後ろからは牛頭のアヴァンが無遠慮な足音を響かせながら追いついてきた。
まずいな。
力で
だからこちらの行動範囲が限られるのは、まったくもって好ましくねえ。
俺は無意識に通路に
ティナを引っ張って窓から瞬時に飛び出せば……そこまで考えて俺は内心で首を横に振った。
俺の視線の動きにディエゴがわずかも反応しなかったからだ。
俺がティナを連れて瞬時に窓から逃げ出すかもしれないというのに。
俺は直感した。
こいつら……あの窓にも
逃げようとして飛び込めば、そこにはすでに不正プログラムの
俺は上級種どもから目を離さないよう注意しつつ背後のティナに声をかけようとした。
だが、ティナの奴は心得ていた。
「
俺に言われるまでもなくティナが背後で
そして床の正常化を終えたティナが俺の腕を引っ張ったのを合図に俺たちは
そんな俺たちを見て、アヴァンはその巨体を揺らしながら追いかけてくる。
「ハッハッハ! 逃げろ逃げろ! 小汚いネズミどもが!」
それにディエゴが床の中に沈んでいくのが見える。
先回りをするつもりだろう。
ティナは前方に不正プログラムの
だが、その度に足止めを食うので後方から追って来るアヴァンに追い付かれそうになった。
「
俺はアヴァンの奴を
そして体が燃え上がるのも構わずに俺に突進してくる。
「グファッハハ! ヌルいぜ下級種!」
「くっ! ティナ! 先に行け!」
そう言うと俺はアヴァンに向かって突っ込んでいく。
床下に消えたディエゴの動きが気になるが、ティナの
そう考えた俺はアヴァンと正面衝突する寸前まで突進し、
そのままアヴァンの足を両足で
「うおっ!」
たまらずアヴァンはバランスを崩して床に倒れ込む。
ズシィンと大きな音を立てて巨体がブザマに寝転ぶ様子を見た俺は、間髪入れず一点集中でアヴァンの
「うおおおおおっしゃああああ!」
こういうデカイ奴は足に集中攻撃を浴びせるのが
そして……。
「
最後に空中前転からの
だが刃と化した俺の
「うおっ……」
アヴァンの足は皮と肉だけじゃなく骨まで軟体化しやがった。
これは奴のスキルか?
バランスを崩してなお着地する俺だが、アヴァンの腰から生えている細い尾が
「くあっ!」
そして今度は着地出来ずに俺は背中で受け身を取るのがやっとだった。
「クハッ……くそっ!」
悪態をつきながら俺が即座に立ち上がると、アヴァンの奴もノソリと立ち上がった。
そして奴がパンの両手を勢いよく合わせると、その体を包み込んていた俺の炎が吹き飛んで消えちまった。
「炎獄鬼バレットとか言ったな。御大層な名前の割に突きも蹴りも全く効きやしねえ。しょせん下級種か」
全身を俺の炎で焼かれたはずのアヴァンはほとんどダメージを受けておらず、
集中打を浴びせたはずの
クソったれ。
確かに俺の攻撃なんざ
首輪で力が弱っている今なら
だが、そんなことは初めから分かっている。
後方ではティナが順調に床や壁の不正プログラムを正常化している。
ティナの修復術で直った箇所には不正プログラムに対する抗体が備わり、もう二度と不正プログラムで
だからイタチごっこにはならねえ。
握り締めた拳の中にじんわりと汗が
強大な2人の敵を前に、俺はガラにもなく緊張していた。
だが、まだ俺たちは手の内に武器を持ったままだ。
落ち着いて対処すりゃ、勝機はある。
そのためにここ数日かけて準備をしてきたんだからな。
俺は気分を落ち着かせつつ、先ほどから目をつけていた床石を踏んだ。
ここを通った下級悪魔どもが踏み残した未発動の
「ああ? 何だこりゃ。ガキの
だが、その
「ウグゥ……」
俺はその
しばらくはあれでアヴァンを足止め出来るだろう。
そうして俺は目を前方のティナに向け、
「後ろだ!」
通路のそこかしこに
その揺らぎの中から現れた小さな黒い影がティナに襲いかかった。
ディエゴだ!
ティナは俺の声に反射的に振り返り、
「
「遅え!」
ティナの反応よりも早くディエゴがその手から黒い
その
チッ!
「くそったれ!」
俺は全力で走りながら壁に突き立っていた
「邪魔すんじゃねえ!」
ディエゴは
「
そのままディエゴは迫る俺にも手をかざす。
まずい!
以前に浴びせられたあの奇妙な重力の魔法がまた来る!
そう思ったその時、黒い
あ、あの馬鹿……。
それを見たディエゴは血相を変え、
「
ティナの体から放射された桃色の光は、その体を締め上げていた
するとディエゴが飛び込んだ壁のひずみが消え去っていく。
そうだ。
あれを浴びれはディエゴはダメージはともかく、不正プログラムを使えなくなっちまう。
そりゃ恐れるはずだ。
ともあれ、ディエゴの
すぐにまたディエゴが現れるはずだ。
油断は出来ねえ。
「と、とにかく今のうちにあそこで倒れているアヴァンを……」
そう言って後方でまだ
「待て。ディエゴにまた不意打ちを食らう前にこの場を離脱するぞ。あくまでも俺達が有利に戦える舞台で奴らを迎え撃つんだ」
戦場において柔軟な作戦変更は時として必要になるが、事前に決めておいた戦術の原則を軽んじて戦局を見誤るという愚行は避けるべきだ。
ティナもそんな俺の
「分かりました。でも、まだこの先も不正プログラムの
そう言って顔を
「道がないなら作ればいい」
そう言うと俺は壁の一部を思い切り蹴りつける。
すると角石を組み上げて作られた壁が
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