第5話 炎魔の槍
「ハグレ悪魔。1対1なら勝てるとでも思ったか? ふざけた男だ」
そう言いながら
俺はその殺意が心地よくて思わず口の
「やる気になったか。そうこなくちゃな。だがせっかくの
そこで俺は背後に隠れたティナが息を飲む気配を感じて
次の瞬間、俺の脇腹のすぐ近くを長い物体が通過していった。
それはさっき
黒槍は
「こいつはな。俺の言うことをよく聞く……うおっ!」
そんな口上に付き合ってやるつもりは毛頭なかった。
俺は一瞬で
瞬時に俺の頭の中に
右
だが……俺はそのイメージ通りに次々と打撃を打ち込んでいくが、それらはすべて
チッ。
俺は左肩の当て身を防がれたところで
この野郎。
思ったよりやりやがる。
しかし、何だこの違和感は。
相手の反応に何か奇妙なものを感じて俺は内心で首を
「そんなもんか? 口ほどでもないな。串刺しになりな!」
そう言うと
俺は半身の体勢でそれを難なくかわす。
こいつ。
防御は見事だったが、攻撃に関しては大したことねえ……。
「ガッ!」
突然、俺の左側頭部に衝撃が走った。
予想外の鋭い痛みに俺は思わず面食らってしまう。
「ぐぅっ……」
余裕を持って避けたはずの槍が俺の左側頭部を打ちやがった。
どうやら当たったのが刃の腹だったのが不幸中の幸いだったが、それでもこめかみの辺りが鈍い痛みとともに出血しているのがよく分かる。
俺は鈍痛に耐えながら即座に攻撃に転じた。
守りに入らずに攻めるべきだ。
だが、俺が連続して繰り出す拳や蹴りを、
「ハッハッハ! どうした? 俺をぶちのめすんじゃなかったのか? こんな程度では俺に触れることすら出来んぞ」
今度こそ俺は油断なくその攻撃をかわした。
だが……突き出された槍の穂先はあり得ない方向に曲がり、俺の
俺は
「くっ!」
何だこの奇妙な槍は。
金属がまるで
俺の様子を楽しむように
「こいつはな、貴様ら悪魔から奪った戦利品だ。標的を逃がさない
ナメやがって。
俺は槍の穂先を
このふざけた槍を俺の炎で溶かしてやるよ。
そう考えて俺はさらに魔力のギアを上げて両手の炎を強めていく。
高熱化された俺の手がそろそろ金属を溶かすはずだ。
だが……。
「……どういうこった」
十分に高熱化された金属が変形し始める頃合いだというのに、目の前の黒い槍は一向に変化を見せない。
俺が思わず
「残念だったな。この槍の素材は熱に反応しない。溶かそうとしても……」
「残念なのはてめえの頭だ」
そう言うと俺は目の前で燃え盛る両手の炎に鋭く息を吹き付けた。
すると炎が大きく放射されて、
「うぎゃああああああっ!」
馬鹿め。
甘いんだよ!
俺は両手に力を込めて黒槍を眼下の海へと放り投げた。
「オラァッ!」
そして間髪入れずに
「がふっ!」
立て続けに俺は左
「ぐえっ!」
苦痛の声を
こいつ、俺の打撃の速度についてこられない。
さっきの黒槍による完璧な防御をした時とは大違いだ。
俺はあの黒槍の奇妙な動きを思い返してピンときた。
「そうか。あの黒槍がてめえを守っていたんだな。三流
その言葉に
その殺意が俺の肌を
これは絶えずケンカを続けてきた俺だからこそ感じ取れる感覚だった。
敵の殺意の糸がピンと張り詰めるその時、敵は俺を殺すことで胸の内が
その一瞬が……今だ!
そして俺は気付いていた。
もう1つの殺意が俺の息の根を止めようとその鎌首をもたげていることに。
俺は瞬時に
それは一瞬の出来事だった。
海面を突き破って下から猛然と突き上げてきた黒槍が、
それは本来ならば俺の腹に突き立っているはずだった。
「なっ……かはっ……」
こいつが殺意を瞬間
黒槍は主人である
それを察知した俺は
上昇してきた黒槍はまんまとご主人様の腹を貫いたってわけさ。
「次に串刺しにされるのは、持ち主であるてめえ自身だったなぁ」
「ぐぅ……き、貴様ぁ。ごふっ」
赤く充血した目を俺に向けて恨み言の一つでもほざこうとした
「楽にしてやるよ」
そう言って俺は奴の腹に突き刺さった黒槍の柄を握ると、力を込めて
腕力が半減していようと、このくらいの芸当はお手のものだ。
「な、何を……ごふっ」
息も絶え絶えの
「あ、兄貴を放しやがれ!」
「この悪魔野郎!」
だが、俺の背中にはティナがいる。
「
俺の背中から放射されるティナの神聖魔法によって
「くたばっちまえっ!」
高速落下する槍は
「がはっ!」
「
そして
「ごあああああっ!」
ライフゼロ。
ゲームオーバーだ。
「あ、兄貴が……」
「そんな……」
その機を見逃す俺じゃねえ。
一番近くにいる奴に飛びかかった俺に、その
「こっ、この野郎!」
必死の
そして左右の拳で派手にワンツーパンチを食らわせ、相手が
俺はその
「いぎゃあああああっ!」
すかさず俺は両の拳を合わせて振り上げると、折れた腕を押さえて悲鳴を上げている
「がっ!」
俺は間髪入れずに次々と手近な
立て続けに
「バ、バレットさん。戦い方が必要以上に暴力的過ぎるのでは? 過剰に相手を痛め付けるのは神の教えに反します」
「ハッ。悪魔の俺に
それに俺も考えあってのことだった。
俺が
こいつらはしょせん、ゴロツキの集まりだ。
厳しい訓練によって自制心を身に付けた正規の兵士とは大きく違う。
同じ人数でも統率の取れた軍隊を相手にするより野盗どもを相手にするほうが楽なのは、その戦闘能力の優劣によるところばかりではない。
正規の兵士たちは味方が劣勢に
作戦中止の命令が下りない以上、最後の一兵になるまで戦い続けるだろう。
たが、こいつらのようなゴロツキどもは違う。
味方が優勢な時は一致団結して戦うが、劣勢になった
自分だけは生き残ろうとする
俺は自分を取り囲む
本来ならば統率を取る役割を
一度
俺がそうやって敵を1人ずつ痛め付けていく間にも、ティナはせっせと神聖魔法で
「バレットさんにひどい目にあわされる前に、せめて私が安らかな眠りを」
ケッ。
どこまでも甘い奴だ。
だが、こいつが妙にそうやって張り切っているおかげで
俺は素早く敵との距離を詰めて攻撃を繰り出しつつ、ティナが攻撃しやすいよう
俺もティナも戦ううちに少しずつ互いに呼吸を合わせられるようになっていた。
こいつの神聖魔法を食らった
いいぞ。
これなら勝利は目前だ。
だが、そう思ったその時、ふいに俺は自分の背中に焼けつくような痛みを感じて顔をしかめた。
な、何だ?
その痛みは増していき、俺は耐え切れずに苦痛の声を
「うぐっ……がああっ!」
そこで俺は気が付いた。
俺の背中側から桃色の光が
こ、これは……ティナの神聖魔法が俺の体を
「おいっ! ティナ! どうなってるんだ!」
「ち、力が抑えきれなくて……くああああっ!」
ティナの発するまるで雄たけびのような悲鳴が海風の中に響き渡り、俺の視界は桃色の光に包まれていった。
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