第二章 『魔王の古城』
第1話 最果ての隠れ家
海風に巻き上がる桃色の髪を手で押さえながらティナは俺の
「ここは……
そこは最果ての地と呼ぶべき場所だった。
海風にさらされて風化しつつあるその
「ああ。今は使われていなくて
その古い
この海の
そう。
この海が2つの国を
ケルの奴をぶっ倒してひとまず
ケルとの戦いは期せずしてティナとの共闘となったが、ここから先は不本意ながら、この見習い天使の奇妙な術をアテにすることになる。
不正プログラムを使用する上級種どもとの戦いでは、それに唯一対抗できるこのティナの力は必要不可欠だからだ。
だが、不正プログラムを抜きにしても、下級種の俺が上級種の連中とまともにやりあえば万に一つも勝ち目はねえ。
ましてや今の俺はティナにハメられた首輪のせいで攻撃力が半減しちまっている状態だ。
奴らを確実に仕留めるには戦略が欠かせない。
だから俺はこの
「バレットさんはいくつも隠れ家を持っているんですね」
「ああ。この辺りは天使どもが海の向こうから渡ってくるからな。訓練代わりにそいつらをぶちのめすのには、ここはちょうどいい拠点だったんだ」
「そ、その話を天使の私にしますか普通」
ティナが顔を引きつらせるのに構わず、俺は羽をすぼめて
ティナの奴もそんな俺の後に続いて
ここに来るのは久しぶりだ。
最後にここを使ったのはもう2年以上も前になる。
「ま、最近は『
「待って下さいバレットさん。
そう言うティナが警戒の表情で指差す先、ガラスのない
俺は一目でそれが何なのか分かった。
「
奴らは気体の死霊で、近付く者にまとわりついてその口や鼻から入り込み、
まあ単体ならどうってことのない奴らだが、眠っている間に近付かれると
この
「面倒だが留守の間に
「私もお力になります!」
張り切って
「奴らがいるってことは現在も
「主?」
「ああ。
そう言うと俺はティナを伴って
まあ周りは海と
何者であれ、ここに住み着くメリットは薄い。
だが俺にとっては違った。
俺が初めてここを訪れた時は、
だが石造りの外壁は風化しつつあるとはいえ、中身はしっかりした作りになっていたために俺は一目でここが気に入った。
海っぺりの岸壁の上に建てられているため、海の向こう側から攻めてくる天使どもを迎え撃つのに最適の拠点だったということもある。
そして豊富な魚介類が
俺は1人ここで自分を
「出やがったな」
「あれが……
思った通り、宙を漂う数匹の
宙に浮かぶ白いガスが炎のように揺らめき、全長50センチほどのその中心部には不気味な人の顔が見える。
奴らはブツブツと恨み言のような言葉を吐きながら俺たちに向かってくる。
こいつらは気体だから
火で燃やしちまうのが一番手っ取り早いんだが、だからといっていちいち
俺はアイテム・ストックから
燃え上がる
炎に
「なるほど」
それを見たティナの奴も
まあ、この程度なら見習いのティナでも問題ねえだろう。
「俺は奥を見てくる。ティナは外周通路を一回りしてこい。何かあれば大声で呼べよ」
「は、はい。お気をつけて」
俺とティナは別々の道に進んだ。
思った通り、奥にも一定数の
「そう言えばこいつらの主についてティナの奴に説明しておくのを忘れたな」
俺がさっきティナに言った主というのはそうした魔物どものことだった。
俺が以前に見たことがあるのは
そういう主がこの
もし
そう考えていた俺が
「バレットさん!」
俺は即座に
何かあったようだな。
外周通路に危険が及ぶってことは外から襲撃者が来たってことか?
クソッ!
まさかもう上級種の奴らが攻めて来やがったか?
いや、いくら何でも早過ぎるだろ。
俺は胸の内で悪態をつきながら、一気に
駆けつけた俺がそこで目にしたのは外からの襲撃者ではなく、奇妙な物体にティナが襲われているところだった。
「ティナ!」
「バレットさん!」
ティナの頭上、通路の天井から薄紫色の液体が
雨漏りのように天井から漏れ落ちるそれは、
どう見てもただの液体じゃねえ。
明らかに意思を持った補食者の行動だ。
とにかく俺が今から住もうとしているこの場所にはふさわしくねえ邪魔者だ。
「ティナ! 下がれ!」
俺は
だがティナは引こうとしなかった。
「こ、ここは私が!」
そう言うティナだが、その足元の床から染み出してきた紫色の
「きゃっ!」
「ティナ!」
すると紫色の
起き上がる間もなくティナの奴は
「チッ! だから言わんこっちゃねえ!」
そう吐き捨てた俺は両手に炎を宿す。
だが、このまま
別にあんなガキの心配をしているわけじゃねえが、俺の首輪の解除をする奴を今失うわけにはいかねえ。
そう考えて
「
あ、あれはケルの奴をぶっ飛ばした桃色の光だ。
あの時のように人の姿はしていないが、ティナの体から
それを浴びた
体の自由を取り戻したティナは起き上がると
「
その光に照らし付けられた
それを見たティナはホッと
「どうですかバレットさん。自分の身は自分で守れるでしょ?」
チッ……ガキめ。
すっ転んでいたくせに生意気なんだよ。
「いい気になってねえで上を見ろ上を」
俺がそう言うとティナは慌てて頭上を振り
そこにはさっきの
「なるほど。あいつが
俺は
「さっきの液状の魔物は他に見なかったか?」
ティナは火が消えたまま床に転がっている
「いえ。私が見た限りではさっきの1体だけです。順調に
「ああ。
俺は周囲に
「おまえが俺の
ティナの神聖魔法・
これは合理的な手法だと思う。
俺がやったようにこいつの手足を縛りつけても、体から
手足の自由を奪われようが、敵に組みつかれようが、自分の身を守ると同時に敵を攻撃できる攻防一体の優れた技術だ。
「私はこの通り体格に恵まれていませんから、敵に押さえ込まれたら一巻の終わりです。そういう事態に対処するために、この技法を編み出しました。先日のあの『
ティナは得意げに胸を張ってそう言うが、俺は鼻で笑った。
「ハッ。おまえはスピードと技術が足りてねえんだよ。石切りコウモリどもに群がられたら最初の一派はさっきの一撃で倒せるだろうが、二射目を放つ前に第二派に襲いかかられたらそこでジ・エンドだ。あまり自分の力を過信しないこったな。見習い天使の分際で」
「な、何ですかその言い方は。バレットさんはもう少し他人の尊厳を大事に……」
「そんな悪魔がいてたまるか。ほれ。ムダ口叩いてねえでさっさと行くぞ」
そう言うと俺はまだ文句を言いたげなティナを相手にせずに、邪魔者たちのいなくなった
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