素直になれなくて
蕾々虎々
ありがとうと、伝えたくて
白く染まった息を吐きながら、神社の石段を一段一段しっかりと昇る。
彼女に告白した日の事を考えると今でも頭が火照る。もし断られたら、気持ち悪がられたら。あの日の私は、自分でも信じられないほど度胸があった。
それと同時に、出会った日のことを思い出す。
駐輪場で鍵が見つからなくて戸惑っている私に、声を掛けてくれたのが彼女だった。
ただでさえ焦っていた上に言葉を口にするのが苦手な私の要領を得ない話を根気よく聴いてくれて、ただ立ち止まっていた私の手を引っ張ってくれた。
いつもうじうじしていて動けない私が、そんな彼女に憧れるのは当然だったと思う。
次の日、お礼と言って彼女を寄り道に誘った時はドキドキしたけど、その時も快く付き合ってくれた。
意思が弱くて思ったことも中々口に出せない。そんな私の辿々しい話を、いつもちゃんと聴いてくれて、頷いてくれる。
もっと一緒にいたい。もっと近くにいたい。この気持ちが恋になるまで、そう時間は掛からなかった。
恋心で胸が疼いて止まらなかった。他のことを考える余裕が無かった。だから、意気地の無い私でも、あんなことが出来たんだと思う。
手紙を渡した。そしてこの長く無骨な階段の先の境内で待っている間、冬なのに暑くて暑くて仕方がなかった。
そして、告白して。
とっても驚いてたようだったけど、答えはOKで。
喜びよりも気持ち悪く思われなかったことへの安心感がずっと強くて、思わずふらついてしまった。支えてくれた彼女の近さが、とても幸せだった。
あれから一年。毎日のように一緒に帰り、毎週のように一緒に出掛けて、一日一日がとても幸せだった。
ただ、だからこそいつも思っていた。私だけが幸せでゴメンねと。私だけが好きでゴメンねと。
嫌われてはいないと思うし、楽しんでくれてるとは思う。それでも、会いたくなるのも、声を聴きたくなるのも、触れたくなるのも、いつも私。私のわがままに、いつも決まって、笑って付き合ってくれる。
だから、決心した。一年前と同じ日、同じ場所で、彼女に伝えようと。
この気持ちは手放せないけど、彼女に謝ることは出来ないけど、せめて、精一杯の感謝を込めて、ありがとうと……。
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