第4話前編.二人なら望む未来へ - 2

 相変わらずの微熱だが、それを隠してここねは久しぶりに登校した。

 一年以上通っている高校へと続く見慣れた道も、いつもより鮮やかに目に映った。

「ここね!?」「ここねちゃん!」「もういいの?」「もう心配したよー……」

 教室のドアをガラッと開けて数秒後、クラスメートたちの声がいくつも飛んできた。わざわざ駆け寄ってくれた友人もいる。

 ここね自身もこの反応は少し意外で、心の芯がじんわりと温かくなる。

「心配かけてごめんねー。これからはできるだけ登校するから」 

「……それじゃ、まだ完治したわけじゃないんだね」

 残念そうに桜ヶ丘まねが確認してくる。

「まだちょっとね。でも治してみせるから」

 ここねは自分の日常を取り戻すため、教室でささやかな宣言をした。

 高校に通って、音楽をやる。つきねやまねと一緒に。

 たくさんの人に歌を聴いてもらいたいから。

 ——放課後に訪れた部室。

 この場にいるのはいつもの三人だ。軽音部としての活動を本格的に再開することはできなくとも、集まった。

「おねーちゃん、授業中気持ち悪くなることとかなかった?」

 つきねが気遣う言葉をかけてくる。まねも休み時間になる度ここねの体調を気にしていた。

 はっきり言って過保護すぎるが、ここねも妹のことが心配で堪らなかったから言わないでおく。

「何とかねー。授業も楽しかったし」

 久しぶりの授業は新鮮な気持ちで受けられた。きっと今日の時間割に数学がなかったのも理由の一つだと思う。

「そうだ。お誕生日過ぎちゃったけど、ここねちゃんが元気になったら盛大にお祝いしようね!」

「やりたい! ——いいよね? おねーちゃん」

 今年の6月6日は誕生日を祝える状況ではなかった。

 高熱で学校にも行けず、一日中自室のベッドの上で過ごして終わった。ここね史上一番嬉しくない誕生日だった。

 けれど、それをここねの親しい人たちは改めて祝ってくれると言う。

「楽しみにしとくよ!」

 その日が少しでも早く来るように、ここねは頑張らないといけない。

「今日一日ここねちゃんの様子をずっと見てたけど、思ってたより体調が良さそうで本当によかったよー」

「ずっと見てたって……さては私のファンだな?」

 まねの言葉を聞いて、ここねは内心ホッとする。

 親友には、これ以上心配させたくない。

「ここねちゃんのファン兼マネージャーです!」

「まね先輩……つきねは?」

 つきねが悲しそうな声音で言うが、これはわざとだ。姉であるここねには分かる。いや、まねも分かっているはずだ。

「もちろん、つきねちゃんの大ファンだよー」

 まねはつきねとハグする。茶番めいたやり取りも楽しくて、笑い声が誰からともなくこぼれる。

 学校に来ることにして良かった——ここねは本心からそう思った。

 この何気ない時間がここねを支えるものだからだ。


 しかし、ここねの「日常」は呪いという名の不条理にすでに侵食されている。

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