第1話後編.はじめの一歩。そして一足先に - 11

 家への帰り道を進む今でも、その音がつきねの耳に残っている。

 陽はすでに傾いていて、隣を歩くここねの影は長く伸びていた。

 空も遠くがほんのり朱色がかっている。

「もうほんとっ……楽しかった。もっともっと歌いたかったよ!」

 姉は先ほどの興奮冷めやらぬという感じで、つきねも急な展開で驚きはしたが後悔はしていなかった。

「つきねも! 最初はどうしようって思っちゃったけど、すごく楽しかった……!」

 つきねは本心をここねに伝える。

 歌手になるのはここねの夢だけれど、つきねもここねと一緒に歌いたいと改めて気づいた。つきねの中で姉と同じ音咲高校に入学したいという気持ちが今まで以上に強くなっている。

 だが、今日の一件で心配も頭をかすめる。

「あ、でも……やっぱりバレたら問題になるんじゃ……」

「むしろ歌ってるつきねは可愛いし、見たら合格にするって!」

「もう、おねーちゃんは」

 ここねは時々いい加減なことを言う。だが、そのポジティブなところにつきねは時々助けられたりもしている。

 いつもと変わらない雑談していると、つきねは前から同世代くらいの少女が歩いてくるのに気づいた。

 すれ違う瞬間、少女とつきねの視線が合った。

 ただそれだけなのに、何故か彼女を視線で追ってしまうつきねがいた。

「どうしたの?」

 姉に声を掛けられ、つきねはハッとして声の方を向いた。

「ううん、何でもないよ」

 自分でも何だかわからないことをここねに伝えるのはやめておこう。つきねは本当にほんの少しだけ気になっただけだ。

「つきね、春からまた一緒に通学できるように頑張る。今日来てよかった」

 ここねが嬉しそうに微笑む。

「軽音部、入ってくれる?」

「もちろんだよ」

 つきねはこれからもここねと一緒にいたい。

 そうすれば、学校生活も歌も、もっともっと色鮮やかに楽しくなる。

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