第1話後編.はじめの一歩。そして一足先に - 4
その週の土曜日。美癸恋中学校近くのカラオケボックスには、マイクを握るつきねとメロディに合わせて体を揺らすここねの姿があった。
歌い終わったつきねに、ここねがパチパチと拍手を送る。
「私、つきねの歌声大好きー。艶があるって言うの? 聞いてて気持ちいい」
つきねはストローに口をつけて、喉を潤している。
「ふぅ……そ、そうかな? 自分の歌はそこまで分からないけど、つきねはおねーちゃんの歌ずっと聞いていたいくらい好きだよ」
次の曲のイントロが流れ出す。
ここねが入れておいたのは、今度の文化祭で歌おうと考えている一曲だ。
「この曲、文化祭で歌うんだっけ? 実は今日聴きたいなって思ってた」
以前につきねとパート分けして歌ったこともある。鈴代姉妹お気に入りの歌だ。
(せっかくつきねとカラオケに来たんだから、つきねと一緒に歌いたい!)
そう思って、ここねはつきねにマイクを差し出した。
「ほらほら、つきねもマイク持って?」
「え?」
マイクを受け取るもつきねは少し困惑気味で、
「……おねーちゃんが歌いたかったんじゃないの?」
「うん。つきねと歌いたかったの! だから――」
つきねが続いてくれることを信じて、ここねは歌い出す。
すると、すぐにつきねの歌声が聞こえてくる。
そして――二人の歌声が重なった。
つきねとのタイミングはばっちり合っていて、ここねは心地よさを覚える。
つきねの方をちらりと伺うと、楽しそうに調子を取っている。
(この感覚、最高っ! やっぱりつきねしかいない!)
ここねの歌うテンションも思わず上がってしまう。
その後もここねとつきねは二人で歌い続けた。
どの歌もそれがその楽曲のあるべき姿であるかのように。
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