『公正な抽選』についての解説など

 第一回こむら川小説大賞の開催が告知された時、この話は既に、私の頭の中にぼんやりとした形で存在していました。だからこそ、告知直後に「何か出す」と意思表示した上で、年内に出せたわけです。


 私は小説を書く時、2つ3つのアイディアを組み合わせて形にすることが多いのですが、今作を構成する元となった要素は主に以下の3つです。


 1.とにかく人類を滅亡させたいヘキ

 2.なにやらグダグダだった2020東京オリンピックの抽選システムをおちょくる

 3.桜を見る会関連で当時よく耳にした「お友達枠」を(略


 隕石による人類滅亡のイメージ元は、YouTubeで見た「地球に直径400kmの隕石が衝突した場合、どのようなことが起こるか」というシミュレーション映像、それと『地球最後の日』という海外SF作品です。これは第二次世界大戦前にアメリカで書かれた小説ですが、ネタばれなしで感想をちょっとだけ言うと、この頃はまだ隕石(的なもの)と闘う発想はなかったんだなぁ、などという感じ。



 全体の構成としては、前半パートと後半パートで語り手も舞台となる場所も全く異なるので、クッション的に「幕間」を挟んで全3話としました。



 前半パートの語り手である「僕」には、年齢と性別以外の属性が裏設定としても特にありません。多分、ごく平凡で特別な能力も持たない、典型的な一般市民といったところ。真実を何も知らされていない一市民から見た隕石衝突直前の喧騒を、淡々と語る役割を担ってもらいました。それでもってあっさり首吊り自殺させるという扱いのひどさよ。気のせいか、私の書く小説では、何かと男がひどい目に遭いがちなのですが、今作でも例外ではありませんでしたね。


 大袈裟な抽選システム自体が一般国民を騙すためのフェイクだったことは後半パートで語られますが、書きそびれた点として、抽選当日、SNSに「抽選に当選した」と書き込む工作員なんかもいたかもしれません。もしかしてそれもITチームのお仕事だったのかと思うと、この人達ホント可哀相……ってなりますね。あ、でもどうだろう。これだけの大ペテンなので、情報操作のためにもひとつチームがあったかもしれません。その辺の設定はあまりちゃんと考えてませんでしたね。

 これも深く考えずに書いたのですが、抽選対象者の年齢に制限を設けたり、あくまで個人単位でしか抽選にエントリーできないことにしたりと、どうせ実際には行われない抽選なのにレギュレーションが厳しいのは、国民を連帯ではなく対立に向かわせるための手段として有効だから、という理由付けができそうです。


 その他前半パートの小ネタ。

 アメリカに合わせたので日本時間では真夜中になった全世界同時告知の時刻については、これ、オリンピックなんかでお馴染みですね。目玉競技の実施時刻をアメリカのゴールデンタイムに合わせる、とか。平昌オリンピックの時、正直迷惑したのは記憶に新しいところ。

 「十五歳から四十歳まで」の年齢制限を設けた理由について、作中では「世代を宇宙空間で繋いでいく旅行であるという性質を考慮」という説明にしていますが、頭の中にもともとあったのは、ハローワークの求人票で、「35歳まで」といった具合に年齢制限を加える場合の理由として書かれる「長期勤続によるキャリア形成を図る為」という文言です。宇宙船に乗るための抽選に応募しようとしたら、そんなお役所みたいな理由で門前払いされた……みたいなショートショートにする案も、初期にはあったんですね、多分。多分って何だ。

 


 幕間は、ここ、駅伝でいうなら繋ぎの区間なのですが、「ない」と思われていた宇宙船が実際にはあって、発射されたという事実と、後半パートの舞台となる宇宙船について人工重力が働いていたり、この後は加速してワープもする予定だったりするという状況の説明をここで行いました。もっともらしく「木星と土星で相次いでスイングバイをして」とか書いてますが、そうするのに都合の良い位置関係に木星と土星がいるのかどうかはわからないし、せめてもののSFっぽさを出すためにこんなふうに書いているだけだったりします。

 余談。明らかなSF用語がこの箇所でしか登場しないので今作についてはジャンルを「現代ドラマ」としたのですが、よくよく考えればこの話ちっとも「現代」ドラマではないし、「SF」で押し切っちゃって良かったかもしれないなぁ、というのがちょっとした反省点です。



 後半パートは、真実を知る宇宙船の乗組員クルーの女性を語り手に据えましたが、一人称を「あたし」にしたつもりがところどころ「私」になっているという痛恨のミス。しかも講評でご指摘いただくまで気付かないという、本当にダメなアレ。他にも、軽微なところでは一文の中で語句が重複している箇所とか漢字表記ルールが統一されていない箇所とかあったし、これはもう、後で訂正入れさせてください…… 

 ここで言い訳を入れておくと、今作はニアリー10,000字が見えてきた時点で「どうせならジャスト10,000字を狙おう」と張り切り始めてしまい、投稿直前は特に、専ら字数調整に注力してました。そのせいで推敲が満足にできなかったのです。ダメですね。それに私、勢いで書いちゃうから書き終えた後のチェックも杜撰なんですよね。ホントダメですね。


 さて。「あたし」の設定ですが。赤城というのはもうひとりの乗組員との会話での必要上設定した適当な苗字です。年齢は前半パートの「僕」と同じくらい。ということは26かそこらなわけで、若すぎやしないかと思うけどそこはそれ、きっと飛び級とかしまくった優秀な人なのでしょう。

 宇宙船の乗組員として考えたけど書かなかった裏設定的なものとして、前半パートの「僕」と後半パートの「あたし」は中学校時代の同級生で、「僕」は仄かに、なんでもできる優等生の「あたし」に憧れていたという過去があり、そのことをせめて死ぬ前に言っておきたいと思ってメールで想いを伝えるけれども、大多数の一般市民を出し抜いて宇宙に逃げる形になる「あたし」は罪悪感とともにそのメールを確認した後でそっと削除する……みたいなエピソードがありました。字数の都合と、「あたし」には人類みんなに対する罪悪感を抱えていてもらった方が良いかな、と考えたのもあり、出しませんでした。多分。だから、多分って何だ。

 同僚乗組員武石については、「あたし」と同年齢か2~3歳上かな、くらいのざっくりしたイメージ。彼は、「あたし」ほど悩んでないっていうか、まぁ割り切ってますね。罪悪感は薄いし、宇宙船の乗組員の末路についても「まぁそーなるわな」くらいにしか考えてない。


 各国情勢について。

 アメリカ:私はアメリカが隕石(的なもの)と闘う系の映画を観たことはないのですが、イメージとしては国を挙げてどうにかしようと躍起になる、というのがあったので。「隕石の脅威に立ち向かう」は「テロの脅威に~」のパロディで、アレな大統領トップのイメージは現大統領その人です。カナダには巻き込まれて沈んでもらいました。扱いがひどいな、とは思います。なんかごめんね。

 ロシア:科学力を軍事攻撃に使ってしまうという形で宇宙船建造から脱落。「トチ狂ったようにやたらと大陸間弾道ミサイルを打ち上げまくる隣国」については、具体的な国名に言及するのを避けましたがどこのことかはまぁ、おわかりいただけますよね?いかにも、パニック状態になってそういうことしそうかなぁ、と。それにしても疑問なのですが、何故日本にはミサイル撃ってこなかったのか。うーん……何故でしょうね。

 印パ:こんな時でも、いやこんな時だからこそ国境問題にぴりぴりするものじゃないのかなぁ、という勝手な想像から、戦争の火種のひとつになってもらいました。アメリカは早々に対外戦争どころでもなくなりますが、ロシアとその隣国、印パの2箇所を皮切りにミサイルの撃ち合いになり、隕石衝突を待たずして人類は滅ぶ、というのがおおまかに想像した地球の末路です。

 欧州連合:ここでいう「欧州連合」、厳密にはEUではないのですよ。ヨーロッパの協定や条約、枠組みっていろいろと複雑で、「要するにどこまでが共同体としてのヨーロッパか」がわかりにくい点などを考慮しました。それにたとえばイギリスは「EUからは抜けたけど宇宙船建造には参加するし搭乗枠もほしい」とか言い出すかな、と。この辺は時事ネタ。

 中国:それこそ国境問題から戦争を始めたり、国土が大きすぎるゆえに自壊したりしそうなものですが、今作の世界線では何故か無事です。

 オセアニア:作者が存在を忘れていたので登場せず。ある意味カナダ以上に扱いがひどい。まぁ……宇宙船建造に踏み切れなかった理由を時事ネタで処理するなら「未曾有の山火事で云々」とかになるのでしょうか。これだと不謹慎すぎるのがネックですね。時事ネタを入れる時はこの辺の加減も難しいです。


 日本が「政治家の汚職や失言、芸能人の薬物問題や結婚離婚に妊娠出産、アイドルグループの解散といったスキャンダラスなニュース」を煙幕代わりに使うことで情報操作をしたという点に関しては、割とどうでも良いニュースをいつまでも引っ張りがちな風潮、そして、芸能人の不祥事などが話題になると「これは都合の悪いニュースから目を逸らすための情報操作だ」とか言い出す人がいることに対する風刺を入れたつもり。「汚職失言不倫と三拍子揃った前首相のドラ息子」のモデルは、国際会議でセクシーとか言っちゃったあの人です。今のところまだ汚職には手を染めていないようですが、さて。


 宇宙船内での生殖方法については、コンピュータがペアを決定した上で人工授精をして、試験管で胎児を育てる、という方式をイメージ。技術要員かつ生殖の義務もある乗組員の「あたし」に、生殖相手を選べないのはなんか嫌だけどお友達枠のおっさんと寝なくても子供は作れるというのはまだしもの救い、と地の文で語らせるつもりでしたがここも諸々の事情でカットされることとなりました。

 技術繋がりでここでついでに言及しておくと、この宇宙船がつまるところどうやって動いているのかは作者にも謎です。一応の参考として読んだ本に『人類、宇宙に住む』がありますが、読めば読むほど「人類の技術力で外宇宙に飛び立つとか無理じゃね?」ってなりまして。結局どう説明付けたら良いのか解決できないままとなりました。

 宇宙船の建造にかかわった作業員をどうやってごまかしたか、とかもしっかりとした設定はありません。必要なくなった時点で口封じのためにみんな死んでもらって、宇宙船建造基地の跡地にでも埋めたのかもしれませんね。やり口がヤクザのそれなのが本当にアレ。でもやりかねない気はするんですよね、この世界線の偉い人達。

 

 宇宙船の乗組員たちの未来については、示唆した通りの末路を辿ると思っていただいて差し支えないかと思います。下手に死期が延びるだけに却って悲惨かもしれないね、という。偉い人達が利己的に乗組員を選定したらこうなった、という、出発点からして間違ってたパターンです。ただ、どうやって乗組員を選定するのが最適解か?という点に関する答えは私の中にもありません。誰の中にもないんじゃないでしょうか。



 今作で頑張ったところは、「そこじゃねぇよ!!」と突っ込まれそうですがジャスト10,000字にすること、時事ネタをおちょくり、社会風刺を入れつつも生臭さや説教臭さがあまり前面に出ないような作りにすること。私は別に教訓話をこしらえたいわけではないので。この辺、うまく行っていたでしょうか?

 シチュエーションありきのお話なので細部については敢えて詰めなかったところもあるし、先に書いた宇宙船の動力源をはじめ、詰め切れなかったところもあります。どうなっているのかよくわからない点がありつつも読み物として成立はしていた、と読んだ方に思っていただけたなら嬉しいです。

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