(1) ~魔女の少女は薬で生計を立てる~
もう昼に近いのに、分厚いカーテンが日光を遮り、部屋の中を薄暗くしている。
部屋はたくさんの本が、部屋の隅にある本棚に入りきらずに、本棚の周りや、作業の近くに無雑作に置いてあり、いくつもの小さな山ができている。
棚や作業台には、色とりどりの薬品の瓶や植物、様々な形のガラスの管や道具が並べられおり、部屋中に、様々な薬草や薬品の匂いが入り混じり、なんとも言えない不思議な匂いになって充満している。
作業台の隣のかまどでは、小さな薬鍋が火にかけられて、薬鍋の中の液体が煮詰まり、湯気を出しながらコポコポと音を立てていた。
「さて、下準備はこれくらいかな……よし、始めよう!」
薄暗い部屋の中、気合いを入れた少女の声が響く。
此処は、街から少し離れた森の入り口、人目から隠れるようにひっそりたたずむ一軒家。
魔女である少女、セレスタイトは、その家の一室、魔女だった母親も使っていた、調合室で、街で売る為の薬を作っていた。
薬研で手早くひいた薬鍋の液体をフラスコに移し、フラスコの中の液体と薬草を合わせ魔力を込める……
すると、フラスコは薄く光を放ち始め、それが収まると深緑色をしていたモノが薄い綺麗な緑色に変わっている。
パッと目を輝かせ「でーきた」とつぶやき、セレスタイトは完成したらしい薬をラベルの貼られたガラス瓶に移し栓をした。
「さて、納品する数はこれでいいかな?」
セレスタイトは前に作っていた薬と今しがた瓶に詰めた薬の数を確認して…
「ありゃりゃ、予定よりちょっと多くなっちゃった……まぁいっか多分大丈夫だよね」
セレスタイトは作業台を簡単に片付け、使った道具類を洗って干し、作業用のエプロンを取って側にあった椅子の背に掛け、分厚いカーテンと窓を開ける。
春の始めの心地良いそよ風が流れ込んでくる。
窓から外を見ると、小さな花が咲き始めていた。
セレスタイトは少し伸びをすると、上機嫌で出かける準備を始めた。
作った薬を全て、大きめの古い肩掛け鞄に入れ、非常時に応急処置の出来る道具や、薬類の入ったウェストポーチを付け、作業のために一つにまとめていた髪を解いた。
シュッという音とともに、リボンが解かれ、肩口に切りそろえられた髪がふわりと広がる。
そして、セレスタイトは手元に残った、髪を結わえるためのリボンを見つめた。
「もうそろそろ、新しい髪飾り欲しいなぁ。薬を売ったら、お店に行って見てみようかな?」
階段を降り、玄関先に掛けてあった茶色のケープを羽織り、姿見の前で立ち止まると、全身を一通り確認する。
家にいる時や、作業中はそこまでこだわらないが、せっかく街へ行くのだ、やっぱり少し、身だしなみは気になる。
確認を終えると、1歩鏡から離れ、その場でクルリと一回転してみる。
スカートの裾が風を受け、ヒラリと舞う。
それを見てにっこりと微笑み、1度、振り返って見渡し、忘れ物がないか確認をし、最後にケープのフードを被って。
「さて、準備完了かな? じゃあ行ってきます」
セレスタイトは、機嫌よく誰もいない家に声をかけ、辻馬車をひろうべく、街道を目指し駆けて行く。街の方からは昼を告げる時計台の鐘の音が聞こえてきた。
~家主が出かけた家ではただ、扉の閉まる音だけが静かに響いた。~
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