34.会議は踊らない
『大会議室』に入ると、避難場所について真剣に議論が行われていた。
守りやすさと過ごしやすさから冒険者たちは街から歩いて半日くらいの西の洞窟を推しているようだが、移動の難しさから役人らしき男は街のどこかしらの建物を避難場所として活用できないかと言っている。
「建物の数を絞れば、守ることもできるのではないか」
「洞窟なら一方からくるだけだから、まだ対応できるかもしれねえが、街なんて全方位からモンスターがやってくる。それに遮蔽物が多くて攻撃もしづらいし、モンスターに隠れる隙を与えちまう。……二十年前を忘れたのか」
冒険者の言葉に、役人らしき男が押し黙った。
それほどに二十年前の『朔の日』は悲惨な出来事だったのか。場は冒険者たちが提案する――クレト様もそうだったな――洞窟に籠る案に決まりそうな雰囲気だ。
すぐにでも移動の準備を進めなくてはいけないなんて話が持ち上がり始めている。
そんな中、俺は思っていた。――いや、洞窟への避難なんて、必要かな?
同時に本当にできるのだろうかと不安にもなる。もし
ああ、怖いさ。失敗したら街の人が皆死んでしまう状況だ。こんな状況、前の世界含め立ち会ったことがない。
――だけど、何も言わないでほかの作戦で失敗したら俺は死んでも死にきれない。
ファナさんは賛同してくれているようだし、意を決して声を出した。
「あ、あの!」
「ん?」
「『朔の日』が終わった後も大量発生したモンスターたちは残っているものなのでしょうか」
「いや、朝焼けとともに、燃えるように消失したのを覚えている」
で、あれば。
「街ごと囲い込んで守るというのは、どうでしょうか!」
俺は拳を握って、会場に叫んだ。
「‥‥‥‥は?」
騒然としていた会場が一気に静かになった。
否定の言葉が出る前に、と俺は矢継ぎ早に口を開いた。
「実は俺、『無限収納』と『念動力』というスキルがあります。これを使って、大きな建物を作ることが可能です! それに、土や岩、木など様々な建材は『辺境の森』から持ってきています!」
そう言って、『無限収納』から大量の岩や土を取り出して、『念動力』を使ってそれらを空中に浮かべながらうにょうにょと動かす。
冒険者と役人たちがそれを目で追っているのを見ながら、土を地面に見立てて、岩を使って『防衛拠点』のように街を高い壁で覆った上で天井まで樹状に覆う構造をミニチュアでつくる。
「このように。……いかがでしょうか」
会議室に再びシーンと静寂が訪れる。ミニチュアだけじゃなくて、街全体でできますよとか、一度作ったことがありますがジャイアントスパイダーの攻撃にも耐えられましたよとかもう少し説明をすべきだろうかと考えていたところ、呆然としていた冒険者と役人たちが顔を見合わせてニヤリと笑った。
「いいじゃねえか! 最高だぜ! マコト」
「マコトさんというのですね。この状況下、貴方のような存在が名乗り出てくださったのは僥倖です」
会議室の中央に置かれた机の真ん中あたりに陣取って、言い争っていた冒険者さんと役人さんがいち早くそう反応してくれた。冒険者さんに至っては机を一瞬で飛び越えて俺のもとにやって来て、手を握ってきた。
「俺はアレックスだ、よろしくな! お前が助けてくれるというのなら、心強い」
「アレックスさん、よろしくお願いします」
アレックスさんに差し出された手を握り返す。アレックスさんは冒険者部隊の取りまとめをすることになったのだという。『辺境の街』に拠点をおく冒険者の中でも最も実力の高いパーティーのリーダーなんだそうだ。
しかし、偉い信頼度が高い気がするんだけど、なぜだろう。内心疑問に思っていると、敏いアレックスさんには伝わってしまったらしい。さすが人をまとめるリーダー。
「マコト、お前のつくった森の拠点に助けられた冒険者は数多い。な?」
そう言って冒険者たちを見回すと、冒険者たちが『うんうん』と強く頷いていた。
「そういえば、最近あの恐ろしい『辺境の森』に拠点を何カ所もつくる冒険者がいるという噂を聞きましたがもしやそれがマコトさんでしたか」
獣道とか、休憩所周辺は別にいじってもいいと言われていたから、いく度に拠点を作るのも面倒くさいよなと思って、何カ所かにポイントは作っていたけど……。
噂になっていたのか。
ちょっと気まずくなって、目を逸らしながら頷く。
「本当に、心強い……。申し遅れましたが、私、この街に役人として勤めております、ベルーガ=レビオスと申します。この度はよろしくお願い申し上げます」
「ご、ご丁寧に、ありがとうございます。私はこの街を拠点に冒険者をやらせていただいております、マコト=ハタダと申します」
お互いペコリと頭を下げたところでなつかしさに襲われる。名刺でもあれば渡したい雰囲気だ。
「では、詳細を詰めていきましょうか。この街を守る、防衛壁の、詳細を」
ベルーガさんが辺りを見回してそういうと、アレックスさんがニヤリと笑った。
こうして、会議は防衛壁をどのような形状にするか、また、どのような運用にするのかという方向に進んでいったのだった。
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