24.建築と、モンスターへの復讐?
夕暮れも近づいたころになって、草原に景色の変化が見られた。ところどころ、はげているところがあるのだ。
「あのはげたところが
ファナさんがはげた地域を指差した。生息地に入ったということなのだろう。
ちょうどいい、と俺たちはそのはげたところにキャンプをつくることにした。
『無限収納』からソファを取り出して、念動力で地面に置く。
「じゃあ、俺は防衛の仮拠点をつくるので、ファナさんはご自由に休んだりしててください」
「おう、ありがとう。せっかくだからソファで休ませてもらうよ」
俺が取り出したソファにファナさんが緩く腰かけて、そのまま横になった。だらっとして見えるけど、あれでモンスターが出たらすぐ反応して飛び出してくるのだから冒険者ってすごい。
まあ、今日は素材集めのために何日かここらに滞在する必要があるから、防衛壁を含めた防衛拠点をつくるので、ファナさんの出番はないかもしれないが。
ゆっくり休んでいてもらえるように、さっさとつくろう。
夜、街の外に出たことがないから知らないが、夜はモンスターが活性化するらしいし、日が沈み切らないうちにしないとな。
「うーん、石造りにしておこう」
俺はまず最初に防壁を生やした。イメージとしてはトルコとヨーロッパの間あたりにありそうな城塞都市的な感じだ。建築に詳しくないのであくまでイメージだが。
外側に穴が空くように土とその下に埋まった岩を動かして、その穴が空いた分だけ壁が出来上がる。『無限収納』から岩を取り出して、その壁を覆うように継ぎ足していけば、あっという間に防壁の完成だ。
つるっとさせたままだと寂しいので、上部にボコボコをつくってみたり、側面に長方形の上に葉っぱをくっつけたような形の模様を入れたり、細い透かしを入れてみたりする。
蜘蛛やら蟻やら虫系のモンスターがいると、壁をつくっただけじゃ侵入されてしまうのだが、ここいらには骨と牛しかいないらしいので、天井はフリーな感じで、特になにもつくらない。
「いつみても面白いな、にょきにょき建物が生えてくる」
ファナさんに見守られながら、『無限収納』から建材を取り出していく。
ぽいぽいぽーいと取り出した木材やら土やらを念動力で浮かしつつ、基礎からつくっていく。急場をしのぐだけなら地面に穴を掘ればいいから強度とかそんな考えなくてもいいけど、何日間か過ごすことがわかっているのなら、強度も考えて基礎のしっかりした家をつくりたい。
とは言え、基礎と柱は地面から生やすんですけど。
草原と土の層を一気に念動力で動かしてどかしていく。どかしたそれらは俺の『無限収納』に放り込んでいく。そして、見えてきた岩に『無限収納』から取り出した岩をくっつけるようにして、みょーんと柱を上に伸ばしていく。粘土みたいに岩が動くのでいつみても楽しい。
同時並行で岩の層から大体の家の間取りに応じた基礎を生やしていく。柱はこの基礎の直角に交わるあたりに生やすのがそれっぽくなるポイントだ。
強度の計算とか素人である俺ができるはずがないが、念動力で動かしていると、かかってくる力とかが本能的にわかるので強度的にもやばいとかやばくないとかがわかる。
おそらく強度的には問題ない物件になっているはずだ。
黒っぽい灰色の岩で基礎と柱をつくりおわったら、念動力で浮き上がって、全体のバランスを見る。
長方形をもとにして、玄関側から見て右側にもう一つ長方形をドッキングさせた感じだが、どうだろう。
ちょっとくっつけた方の長方形が右に出すぎているような気がするので、念動力で微調整。うん、いいかんじ。
くっつけた長方形の方を上に伸ばしていき、塔っぽいものをつくる。
……オシャレさを求めたっていいじゃないか……。
塔の上は平らにして、もう一方の残った長方形の方は若干の勾配をつけた屋根をかたどる。
後は、先ほどよりはちょっと明るめの色をした岩をレンガ風の模様にアレンジしながら、柱の間を埋めるようにしていく。ところどころ模様を入れたり、窓を開けたりして。
家の中は、床に木材を敷いてフローリング張りにして、それぞれの部屋に『無限収納』から家具を出して、窓ガラスをはめてみたり窓の位置を微調整したりして、内装も完了!
柱だけむき出しになった屋根部分に、木枠を作成。オレンジっぽい色の土を固めてつくった『なんちゃって瓦』を敷き詰めれば、おうちの完成だ!
「できた!」
俺は浮かびながら、達成感で汗を拭った。汗はまったくかいていないので、ふりだ。
ソファに寝ころんでいたファナさんはいつの間にか完成した玄関の前に立っていた。
「ぽんと建ったな……。あらためて見ると、本当驚きでしかない。あの『辺境の森』でお前がつくった『防衛拠点』とかいうので、お前が家をパッと作れるというのはわかっていたが。こう、まぢかで実際にみると、信じられない思いだな」
呆然とした様子でファナさんが建物を見上げている。
俺もその隣に降り立って、建物を見上げた。俺の想像したトルコとヨーロッパのあいの子なんちゃって建築だから、適当極まりない感じだが、まあいい感じにまとまったと思う。
「ここにくるまでは自分がこんなことできるようになるなんて思っていなかったですよ」
ついついしみじみと呟く。
日本で会社員をやっていた頃は、楽しみもなく、ただ消耗していく日々を送っていた。仕事なんて、ただお金を得るための手段だというのに、特に猛烈にしたいこともなし、将来にはどうせ年金も満足にもらえず老いて死ぬだけだ、と。
しかし、今は冒険者として働くのも楽しいし、――これは好きな時に選り好みして依頼を受けているからだろう――何かを創り出していく過程もとても楽しい。いつか終わりはくるのだろうが、人生という過程を楽しむ余裕ができた。
「極限状態で目覚めた力というわけか」
「そうですね……。巨大蜘蛛に襲われているときはなんでこの力って思いましたが、今となれば日々楽しく過ごせていますし、いい力なのでは? と思っています」
「……いや、そういうわけではないのだが……」
「?」
なんだかファナさんに残念な子を見るような眼で見られてしまった。
「どういうことですか?」
「いや、スキルの応用ができるようになるのは誰しも極限状態に追い込まれた時だというからな。これまでの生活では使っていなかったようではあったし、蜘蛛に襲われたことでこういった使い方に目覚めたのかと思いきや、最近になって覚えたようだし」
「ああ! そういうことですか!」
そういえば、俺はこの世界に生きていたどっかの街の人が『転移トラップ』を使われていきなり森の中にいたとファナさんに思われているのだった。
この世界の人間ならスキルははじめから持っているわけで、なんで最近になってこんな使い方をするようになったかという話だったのだろう。
あー、いや、でもその説明をしようとすると俺がそもそも異世界人でという話から説明せにゃならんぞ……。
「ま、まあ、家は出来上がりましたし、入りましょう! リビングキッチンとファナさんと部屋と俺の部屋の3部屋と、塔がありますよ」
結局、ごまかして家に入ることを促すにとどめる俺だった。
◆
翌朝、すっきりと目覚めた。
ほどよい運動で身体が疲れていたので、ぐっすり眠れたって感じだ。
「おはようございます」
「おはよう」
俺が起きてすぐにファナさんも起きだしてきた。朝ご飯は商店街で買ってきた屋台のケバブっぽい食べ物だ。スパイスが効いていて旨いが、パンも肉も固いのでむりやり噛み千切る。噛み千切ろうと悪戦苦闘している横で、ファナさんが涼しい顔して食べていた。
あごの筋力まで違うのか。
「いよいよ今日から討伐だな。
「昨日飛んでみて思ったんですが、ファナさんが戦っている間、俺が飛んでいるっていうのはどうなんでしょうか? 移動には遅すぎて使えませんが、浮いているだけなら問題ないと思うのですが」
「言われてみれば、いい作戦だな! 森だと浮いているなんて無意味だが、草原だと有効だ。じゃあ私はマコトが浮き上がるまでの間耐えられれば問題ないわけだな」
ご飯を食べ終わったところで作戦も決まったので。
腹ごなしに準備運動を終えて、外に飛び出す。
ちょっと飛び上がって辺りを見回すと、遠くの方に黒い点が見えた。
「ファナさん、向こうに点が見えます! たぶん、
「よし、じゃあ、そっちに行ってみよう」
方向を覚えて、地面に降り立つ。地面からだとぎりぎり見えない地平線の向こうあたりにいる。5kmから10kmといったところか。
歩きで
しばらく歩くと、遠くの方に牛の群れが見えた。
「あれが
「そうだ。運がいいぞ、群れを成してる」
「運がいいんですか? 大変なんじゃ……」
「普通ならそうだが、私がついてるからな。
ファナさんがニヤッと笑って、背負った大剣をノックして見せた。何そのジェスチャー。
イケメンすぎませんか。
俺はドキドキしながら牛の群れに近づいていった。少しすると、牛たちの方も俺たちに気が付いたらしく、土煙を上げながら猛烈な勢いでこちらにやってきた。
「だ、大丈夫なんですか、あれ!」
思わずびびって声を上げるとファナさんが笑った。
「歩いてく手間がはぶけて結構だよ!」
背中の大剣を引き抜いたファナさんが駆け出す。待って、ホントイケメン。
俺は慌てて念動力で空へと浮かび上がる。うっ……、念動力の速度が憎い。なんでこんな混雑時のエレベーターみたいなくっそのろい速度なんだ……。
つい昨日は絶賛していたはずのスキルを罵倒しながら必死で浮かび上がる。
その間にも牛たちは刻々と近づいてきており、「ブモオオ」と物騒な鳴き声が聞こえ始める。うひい。
ファナさんは嬉しそうな駆け足で、牛の群れに突っ込んでいった。
先頭を走っていた牛を横薙ぎに倒すと、ボウリングのように群れの前方が崩れた。しかし、死んではいないので、転んでいた牛たちが徐々に立ち上がってきている。
しかし、ファナさんのそのボウリング行為によって、俺は無事牛たちの届かない高さまで浮かび上がることに成功した。
「じゃ、あとは、いつものように! だな!」
ファナさんが大剣を振るいながら叫ぶ。
「はい! 準備万端です!」
ファナさんが群れの外側から弧を描くように立ち位置をかえながら、剣を横薙ぎに振るう。そうしているうちに牛が一カ所にまとめられておしくらまんじゅうのようになってきた。
俺は浮かび上がりながら、いつものように『無限収納』から大きな岩を取り出して、重力に任せて落っことした。
ファナさんによりまとめられていた牛の群れの上に見事落下した大岩は、一気に牛を殲滅した。あとはちょいちょい岩を落としたりしてファナさんをサポートしながら、上空浮遊の俺。
『無限収納』からものを出す場所とタイミングをはかれば、ファナさんに足止めされた牛に岩をぶち当てることくらいはできるようになったのである。
『辺境の森』での採取依頼の時にも何とか会得した連携技術である。
まあ、結局最後にはファナさん無双になったのだけれど。
それから何泊かして、牛狩りを続けた俺たちは、依頼の5倍程度の牛が集まったところで、切り上げることにした。
牛の群れ、ごっちゃんです。
「いやマコト、今回はすごい勢いで探しだしてすごい勢いで倒してたな……何か恨みでもあるのか?」
「いや、お肉と思ったら……」
初日に狩った牛さんを解体して食べてみたらそりゃもう美味かったもんで。
食にこだわりのある日本人としては、牛を見たらお肉と思って飛びついてしまうものなのである。
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