あたしの方が先に好きだった
奈名瀬
2月14日 St.Valentine
ふふふ……今年もからかってやろーっと♪
JKであるにも関わらず、バレンタインに義理チョコのひとつも用意しないあたしだけど、毎年楽しみはあった。
自室に入るなりカバンを放り投げ、ベッドへ寝転ぶなりたぷたぷとスマホを開いて『先輩』へのメッセージを打ち込み始める。
『先輩、今年はチョコいくつもらえたんですかー?』
去年に引き続き、高三になっても先輩がチョコをもらえなかったことはもう確認済みだ。
しょげた先輩の姿を思い浮かべながら笑い、返信を待っていると――。
「およ?」
――メッセージを送った数秒後には通知が入った。
「通知はや。よっぽど暇だったんですねぇ」
でも、あたしは先輩からの返信を見た途端……さぁっと血の気が引いてしまう。
『今年はもらったつうか、あげたけど?』
「え……?」
思わず声が出た。
先輩があげた? チョコを? 誰、に?
指に、うまく力が伝わらない。
けど、ざわつく心を落ち着かせようと『いつも』の軽口を打ち込んでいく。
『もしかして、男子同士で交換こですかぁ?』
『さみしーい♪ あたしに言ってくれたらぁ、先輩にもチョコあげたのになー♪』
けど――。
『いや相手、女子だけど』
「うそ……」
また、止めようもなく声が漏れる。
『一年の女子』
『ずっと前から好きだったからさ』
『なんというか、意表をつきたくて……逆チョコってのしてみたんだ』
一年の――ってことは、今年の新入部員の誰か、とか……?
やだ。
嘘だよ……。
だって、あたし以外に先輩が……そんな子、いたなんて知らなかった。
あたしだって先輩のことずっと――なのに。
「せんぱい」
……いつのまに、誰かを好きになっちゃったんですか。
そんな想いが言葉になって漏れていたことに気付いた時、目には涙が浮かんでいた。
『へぇ、それはそれは』
『先輩にしてはがんばりましたねぇ』
必死に軽口を打ち込みながら自分が後悔していることに気付かないふりをする。
でも――。
『それで、結果はどうなったんです?』
それでも、もう少し素直でいたらなんて思いながら……。
ううん、そもそもこんなメッセージを送らなければよかったと、それを一番後悔しながら。
「…………」
また、通知が入る。
やだ。見たくない。見たくなんてない。見たくなんてなかった……。
だけど――。
『どうなったって……』
『お前』
『自分のカバンの中、見てないのか?』
――直後、私は放り投げたカバンを抱きしめに走った。
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